ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3145)

 新参者の心得 -いかに組織に適応するか-

 内心、「職場に馴染めない」とか「組織に適応できない」という悩みを抱えている人は少なくないと思う。僕自身のことを振り返っても、多少の心当たりはある。

 新参者として、どう組織に溶け込むのか。よく思うのだが、やはり新参者として組織と関わる際には、一定の心得が必要だ。

 これは明示的に教わるものではないので、気付く人は気付くが、気付かない人は気付かない。適応できない人は、自ずと去っていく。これは一種のスクリーニング(選抜)でもある。

 まず言えることは、新参者は「最初からむやみやたらと動かない方がいい」ということだ。新入社員や中途採用、人事異動によって新しい環境に入る時、これは特に重要になる。

 新参者にとって大切なのは、「まずは観察に徹する」ことであり、「組織を動かす文法を見極める」ことだ。その際は「これまでの経験」を一旦、リセットすることが必要になる。

 「郷に入りては郷に従え」という格言がある。この格言は既存の組織に新参者として入る時にもそのまま当てはまる。

 人間は感情で動く動物なので、「最初はあまり目立ち過ぎない方がいい」。新参者がこれまでの仕事のやり方を否定するようなラディカルな提案をしたりすると、大抵、既存のメンバーたちから強い反発を受ける。

 最悪なのは「前の組織ではこうだった」といった類の発言をすることだ。

 無理は禁物だ。やる気満点で威勢のいいことを言ってアピールする新参者は、大抵、長続きしない。

 「早く成果を挙げて、自分の居場所を作りたい」という焦る気持ちは、よくわかる。だが、焦る気持ちはなるべく抑えた方がいい。

 僕自身のことを振り返っても、新参者として成果を焦った時は、うまくいかなかった。

 理屈としては間違っていないことでも、「新参者として、分をわきまえる」という配慮に欠けると、人間関係で足元を掬われてしまう。酷い場合は、濡れ衣を着せられて、懲罰人事に遭う。

 世の中はフェアではない。華々しいことばかりしていると、嫉妬や嫌がらせの標的にもなる。自分の身は自分で守るしかない。

 新参者にとって大切なのは、まずは「期待される役割を確実に果たす」ことであり、「他のメンバーから仲間と認められる」ことである。ここで失敗すると、何をやっても上手くいかない。

 それでは、「新参者に期待される役割」とは何か。これは端的に言えば「他のメンバーが嫌がる仕事」をすることだ。新組織で仲間として認められ、いずれ頭角をあらわすためには、このプロセスは避けて通れない。

 これまでのキャリアがどうあれ、新参者はまずは「組織の最底辺にいる」と自覚した方がいい。疑問点があったら、既存のメンバーによく確認し、業務の全体像とそれぞれのメンバーの職務をよく理解するように心掛けることが大切だ。

 新参者は謙虚であるべきだが、職場のキーパーソンと「相手にしてはいけない人」を冷静に把握する必要がある。これは表向きの地位や肩書きとは必ずしも関係ない。

 例えば、既存メンバーの中には、新参者に対してやたら馴れ馴れしい人もいる。この手の人は「お荷物社員」の可能性が高いので、要注意だ。他の人から相手にされないから、新参者にちょっかいを出すのだ。こういう人の説教の類は、聞き流した方がいい。

 その上で、新参者は新しい環境をよく観察し、「皆が嫌がる仕事」を見極め、自分の担当業務とし、全面的に引き受けるのが望ましい。

 何故なら、「皆が嫌がる仕事」には裁量の余地が大きい。更に「皆が嫌がる仕事」を全面的に引き受けていれば、新参者が改善提案等をしても許される。

 では、「皆が嫌がる仕事」とは何か。

 代表的なものは、敗残処理や危険を伴う作業だ。例えば、他人の失敗の後始末、自分の責任ではない案件での謝罪、火中の栗を拾うような仕事、終了するシステムやサービスの担当、負傷するリスクのある作業などは基本的に誰もやりたがらない。

 目安として、新参者が「皆が嫌がる仕事」を全面的に引き受けるようになるまでには、3ヶ月から半年くらいはかかると思う。ここまでは「守り」の期間であり、あまり目立たない方がいい。

 「皆が嫌がる仕事」を全面的に引き受けたら、いよいよ反転攻勢に転じるのだ。「皆が嫌がる仕事」で結果を出していれば、文句は言われない。

 「皆が嫌がる仕事」の改善手法を考えるのであれば、これまでの経験を活かしたり、ラディカルな検討をしても摩擦は少ない。ここで圧倒的成果を出せるかが勝負になる。これに成功すれば、徐々に組織のコア部分を任せられるようになり、発言力も増していく。

 僕自身、組織人としては決して褒められた人間ではないけれども、それでも何とか、ビジネスの世界で生き残っている。

 その理由もやはり、新参者の頃から、華やかな「人気の仕事」に背を向け、あくまで「皆が嫌がる仕事」で結果を出してきたからだと思う。

  そして、少なくとも僕自身は、これからもこの「新参者の心得」を実践し続けるだろう。

山田宏哉記

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2012.6.3 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ