ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3152)

 「工場閉鎖」のシナリオに備えよ

 工場は、日本の製造業の象徴でもある。日本を代表する企業と言えば、今の今でもトヨタを挙げる人が多いだろう。

 「但し」と僕は思う。今後、工場の無人化とアウトソーシングが更に進み、日本の工場で働く「作業員」が不要になるのは、おそらく避けられない。

 不測の事態による閉鎖もありえる。東日本大震災でも、津波によって多くの工場が生産設備を失うことになった。

【写真】津波で被災した工場(福島県いわき市。2011年07月10日撮影)

 僕は、震災ボランティアとして、福島で津波被害を受けた工場で作業をした経験がある。

 その時、一緒に作業をした仲間が「壊れた工場で働いていた従業員はどうなったのだろう。解雇かな」とつぶやいた。依頼者に聞く訳にもいかなかったが、雇用を維持できないのは確実だった。

 工場で働いている人が、「工場閉鎖」に直面した場合、キャリア上、大きなダメージを受けるのは避けられない。工場労働者は、機械設備や生産工程と一体化した技能が中核スキルになっている場合が多く、「工場閉鎖」ともなれば一瞬で価値を失ってしまう。

 だからこそ、工場で働くにしても、機械設備や生産工程と一体化した技能の習得に全力投球をするのは、極力避けたいところだ。

 それより品質管理のノウハウ策定や作業の標準化、安全管理、作業員の教育訓練など、別の工場で働くことになっても通用する技能の習得に注力したい。

 「工場閉鎖」の話は、同じ構造の話として、ホワイトカラーにも当てはまる。例えば、現行の情報システムの操作に詳しい人がいたとする。彼の技能は当面は重宝されるが、情報システムがリプレイスされた瞬間に、無価値となる。「システムと一体化した技能」はリスクが大きいのだ。

 工場の生産設備と一体化した技能は、つぶしが利かない。「工場閉鎖」が殆どなかった時代ならばともかく、現代において、工場の生産設備に依存した技能しか持たないのはリスクが高すぎる。

 だからこそ、僕自身は、文書作成と編集の技能を中核スキルにしている。これは生産設備や情報システムには切り離された技能だし、僕は意図的にそういう分野の技能を伸ばすようにしている。

 更に言うと、「勤勉」とか「愚直」が評価されるのは、工場の作業員のように、投下した労働量と成果に相関がある場合に限られる。「結果が全て」の世界では、この種の精神論がむしろ仇になることの方が多い。

 だからこそ、「工場閉鎖」のシナリオに備え、修得する技能と価値観を変える必要がある。僕たちはもう、古き良き時代の工場労働者のようには生きられないのだ。

山田宏哉記

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2012.6.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ