ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3157)

 なぜ、日本企業は社員の自己研鑽を嫌うのか  

 長野慶太氏の著書によると、かつての日本の都市銀行は、行員が(勤務時間外に)英会話学校に通うことを禁止していた。「業務の妨げになる」というのが理由らしいが、とにかく英会話学校に通っていたのがバレた長野氏は、謝罪文書を書かされたそうだ。

 このエピソードは、日本のビジネスシーンで生き残るための重要なヒントを含んでいると僕は思う。

 今でこそ、「英語公用語化」などが叫ばれ、日本企業でも社員の英語力向上が喫緊の課題となっているが、一昔前はこんな調子だった。

 そして、僕は今でも、多くの職場ではこのような体質を引きずったままになっていると思っている。

 明言されることは滅多にないが、多くの日本の職場では、社員がうかつに自己研鑽をすると、嫌われることになる。

 もう少し具体的に言おう。部下が勤務時間外に自主的に学習するのを好ましく思っていない上司は、今でも結構いる。特に「俺が教えたことだけやっていればいい」というタイプの上司は、部下が勤務時間外に勉強するのを露骨に嫌がるものだ。

 社員が自主的に学習をすると、実は「会社の教え」や「上司の教え」が間違っていることに気付くこともある。

 「俺が教えたことだけやっていればいい」というタイプの上司は、自分は会社の外では勉強しないため、部下が「外の知識」を持ち込んで仕事をするのを恐れている。更に、優秀すぎる部下は上司のポジションを脅かすことになる。

 日本企業が社員が自主学習をするのを嫌がる理由は、学校が生徒が塾に行くのを嫌がる理由と同じだと思う。彼らは極力、純粋培養で人を育てようとしていて、「先生/上司の言うことさえ素直に聞いていれば充分」と信じている。

 僕自身は、大量のビジネス書を読んでいて、それが仕事の成果に結びついているが、これがアピールすべき部分でないことは自覚している。日本企業の論理では仕事の成果は「上司や先輩の教え」に基づいて出すべきであり、「ビジネス書を読んで、成果を出す」というのは邪道なのだ。

 僕も社会人になりたての頃は、勤務時間外に勉強していることを基本的に隠していた。この判断は、今でも間違っていなかったと思う。

 企業によっては「新人が白紙であること」を強く求めるので、「会社の外の知識」はあまり言動に出さない方がいい。僕も職場では基本的に読書の話はしない。

 学校教育の世界では読書をしていることはプラスに評価されるが、日本企業では本を読んでいるのはむしろ隠した方がいい。「余計な情報」を得ることで、組織や上司に対する忠誠心が相対化されてしまうからだ。

 今にして思うと、多くの日本企業は本音の部分では、副業を禁止するのと同様に、社員が英会話学校や資格学校、ビジネススクールや大学院に通うのも、一括で禁止したいのだと思う。

 それどころか、本音では、社員がTVや新聞雑誌、ウェブや書物に接するのも禁止したいのだと思う。

 山田宏哉記

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2012.6.16 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ