ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3159)

 読書を実務に活かす暗黙のプロセス  

 先回、「日本企業は社員の自己研鑽を嫌う」という趣旨の話をしたが、その中で「僕自身は、大量のビジネス書を読んでいて、それが仕事の成果に結びついている」と書いた。  

 「ビジネス書は、実務の役に立つか」というのは、案外、奥の深いテーマだ。結論から言うと、読書を実務に活かすためには、暗黙のノウハウがある。

 読書を実務に活かせるのは「仕事ができる人」であり、これができない人だと、いくら読書をしても、実務能力は伸びない。

 では、実務に活かすためには、どのようなスタイルで読書をすればいいのか。

 順を追って解説すると、まず「読むに値する本を選ぶ」という点が大切だ。基本的には、本は著者を基準に選ぶことをオススメする。一部の自己啓発作家を除けば、通常、良書と駄本を書き分けるようなことはできない。

 出版業界には「良書を書く著者」と「駄本を書く著者」がいるので、実務に活かすのであれば、読書対象から「駄本を書く著者」の著作を排除することが大切だ。

 読む本の選定が間違っていると、読書をするほど、仕事に悪影響を及ぼしてしまう。

 いちいち具体的な書名を挙げることはしないが、僕の判断では、例えば『ゾウがチーズを食べた』みたいな寓話仕立ての本や、宗教団体の関係者が書いた自己啓発本などは、駄本の部類に入る。

 一般論として言うと、説教や能書きの類は字数を稼ぎやすいために情報密度が低くなる。対照的に事例の記述は情報密度が高くなる。

 従って、新聞記事や「日経ビジネス」の記事のように、裏取りされた事実が記述された本は、情報価値が高く、特に読む価値がある。

 さて、読むべき良書を入手したとする。次は「どう読むか」が重要になる。

 良書といえども、「あまり真に受けない」ことと「自分の経験に照らしながら読む」ことが大切だ。日本人は紙の印刷物をありがたがる傾向があるが、読書といえども、匿名掲示板から有益な情報を選別するような姿勢で読むことが大切になる。

 本に書いてあることだからと言って、事実とは限らない。必要であれば、自分で裏を取ったり、更に突っ込んだ調査をすることが大切になる。

 読書を実務に活かす肝の部分は、「事例の抽象化」と「自分の担当分野への類型の適用」となる。

 例えば、IT企業のプロジェクトマネジャーが旅館経営の著作を読み、その中で「簡単な調理を自動化し、客室係が顧客との接点に専念できるようにしたら、顧客満足度が上がった」という記述に出会ったとする。

 この記述を抽象化すると「まずは、業務を付加価値の高い作業と低い作業に切り分ける。その上で付加価値の低い作業は極力自動化し、スタッフは付加価値の高い作業に専念するのが大切だ」となる。

 このように事例を抽象化すると、「自分の担当分野への適用」が検討できるようになる。

 現在進行中のプロジェクトの中で、"簡単な調理"に当たるものは何か。それを、どうすれば"自動化"できるのか。そうして節約した時間を投下するべき"付加価値の作業"とは何のか。

 読書をしながらも、あくまで当事者として考え、自分が担当する具体的な作業や仕事で関係する具体的な人物を思い浮かべながら読書をすることが重要になる。

 経験的に言うと、良書を読めば、1つか2つは、自分の仕事の活かせるヒントが得られるものだ。逆に「仕事が活かせる点」があまりに多いときは、「検証が甘いのではないか」と疑ってかかった方がいい。

 読書をした後は、読書で得た知見やアイディアを「具体的なアクションプラン」に落とし込む。

 読書で得た情報や知見は、本当に有益だったのか。その効果検証が必要だ。

 これは想定通り上手くいくこともあれば、現実には上手くいかないこともある。上手く行かなかったときは軌道を修正し、上手くいく形に調整し、それを習慣化する。

 実務能力が低いうちは、おそらくこの調整ができないと思うが、質の高い実務経験を重ねれば、自ずとこのノウハウをつかめるだろう。

 私見では、読書が仕事の成果に結びつかない人は、上記のプロセスのどこかに穴があるのだと思う。

 いずれにせよ、本の選定から、本の読み方、読了後のアクションプランに至るまで、一気通貫で精度を高めることではじめて、読書を仕事の成果に結びつけることが可能になるのだ。

 山田宏哉記

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2012.6.23 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ