ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3166)

 随想:万引き少年のT君

 小中学生の頃、僕の周囲には「万引き少年」がいた。彼らの「犯行現場」を目撃したこともある。とはいえ、当時の僕は勇気がなかったので、特に注意もせず、「自分には関係ない」と思っていた。

 当時、「万引き少年」として有名だったのが、T君だった。彼は店から物を盗むだけでなく、一緒に遊ぶ友達からも盗んでいた。

 T君の家庭は、それほど貧乏というわけではなかったと思う。

 当時、僕たちのあいだでは、「カードダス」と呼ばれるカードが流行していた。1枚20円で、僕はせいぜい100円で5枚買うのがだったが、T君は1000円で50枚とか、そういう買い方をしていた。

 但し、T君は「自分が持っていないカード」に執着するような面はあった。

 T君は僕の家に遊びに来ることがあった。僕たちは「カードダス」のカードを持ち寄って遊んでいたが、T君と遊ぶと、よく僕のカードがなくなった。「もしかして」とは思ったが、「T君が盗んだ」とはあまり考えたくなかった。

 T君と遊んだ数日後、なくなったカードが家のポストに入っていたことがあった。T君にはT君で、内面の葛藤があったのだと思う。

 ある時、決定的な出来事が起きた。家でT君と遊んでいた時、僕がトイレに行っている間に、アルバムに収納しておいたカードが数枚なくなった。

 僕は、自分が持っていたカードを比較的詳細に記憶していた。そして、そのカードはT君の持っているカードの中に紛れこんでいた。

 その現場を僕の母親も見ていて、以後、僕がT君と遊ぶことは殆どなくなったと記憶している。

 僕以外の生徒たちも「T君に物を盗まれた」と言っていた。お店の人もT君のことは特別に厳しくマークしている、というのが専らの噂だった。

 その後、T君は、不良少年となり、ヤンキーとなり、道を踏み外していった。自らの行いについて謝ることも、結局、なかった。

 あれから約20年が経った今でも、僕の中で、T君と言えば「万引き少年」だ。たかだか、1枚20円のカードダスを数枚盗んだだけであっても、失った信用を取り戻すことはできない。

 窃盗癖のある子どもは、おそらく将来、前科者として軽蔑され、社会の底辺を這いつくばることになる。

 僕もまた、T君を見下し、軽蔑している。今でも「T君は小学校時代からロクな奴ではなかった」と思うし、その後、実際にT君が不良少年になり、ヤンキーになったことで、その偏見はさらに強化された。

 T君のことを思い出す度、親がまず子どもに厳しく躾けるべきは「他人の物を盗まない」と「万引きをしない」だと思う。ここは絶対に妥協してはいけない部分だ。

 腐った人間は、小学校時代から既に腐っていた。少なくともT君は、そうだった。

 山田宏哉記

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