ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3171)

 「よく喋る人」は他人の話を聞いているのか

 ジョン・P. コッター(著)『リーダーシップ論』(ダイヤモンド社)を読んだ。数年前は「下っ端の自分には関係ない」と思っていたが、非常に示唆に富む内容だった。

 特に印象的なのは、優秀なゼネラル・マネジャー(日本企業で言う部長クラス)ほど、1日の中で他人と過ごす時間が多く、(書籍や報告書ではなく)対話を通して情報収集を行う、という指摘だ。

 確かに、思い当たる節はあるが、今の僕にはその理由がうまく解釈できない。僕には「よく喋る」という資質がないので、「対話による情報収集が重要」と言われても、少し戸惑ってしまう。

 ただ、改めて考えると、「よく喋る人」と「対話を通して情報収集をする人」は、実は全く別物ではないかと思う。

 よく感じるのだが、「よく喋る人」は、予め自分の中で話すことを決めている傾向があるような気がする。こちらがどのような反応をしようと、結論は予め決まっている。要するに、テープレコーダーを再生するのと大差がないのだ。

 個人的に僕が話していて苦痛に感じるのは、こちらの反応に関係なく、一方的に話を展開して、相槌を打つくらいしかできない人だ。その手の話は、犬や猫相手にすればいいのに、とつくづく思う。

 自分の中で、予め台詞をセッティングして、然るべきタイミングで再生ボタンを押す。確かに、そういう話し方が必要な場面もあるけど、そういう人とは話す価値がないと思う。

 話す内容が決まっているなら、文書で連絡してもらった方が効率的だ。

また、日常会話を振り返ると「相手の話から始める人」と「自分の話から始める人」がいることに気付く。仕事のパフォーマンスが高い人は、「相手の話から入る」ことが多く、パフォーマンスが低い人ほど、「自分の話から入る」傾向がある。

 一方的に自分の話をする人に限って、他人の名前をよく間違える。彼が必要としているのは「自分を賛美する聴衆」であって、あまり他者の一人ひとりには興味関心がないのだろう。

 ちなみに、山田玲司氏によると「舎弟聞き」というテクニックがあるそうだ。得意気に武勇伝を披露する先輩に対して、ひたすら「マジっすか」「凄いっすね」と反応する。人間、バカになると、相手に「舎弟聞き」を要求するようになるものだ。

 「他人の話をキチンと聴く」というのは、実はとても難しい。僕の場合、相手の話に集中せずに、つい「次に自分が言う台詞」を考えてしまうことがある。ただ、その自覚は持っていて、なるべく改善しようとは思っている。

 自己顕示欲の強さが常軌を逸しているタイプ(僕もそうだが)の中には、「自分が話題の中心にいないと不機嫌になる」というタイプがいる。こういう人と同じ空間を共有すると、本当に疲れる。しかも、本人には自覚がない(僕は自覚している)から太刀が悪い。

 僕の独断と偏見では、「自分が話題の中心にいないと不機嫌になる」タイプには、教祖やワンマン経営者、弟子を持つ師範などが多い気がする。思うに、彼らは「若い頃、世間から相手にされなかった」ことを今でも根に持っているのだ。

 僕の場合、日常会話では「相手へのフィードバック」を発言の中心にしようと努力はしている。意外に思う人もいるかもしれないが、日常の文脈では、自説の展開や自分の話はほとんどしない。

 自説の展開などは、文書で公表した方がよほど効率的だし、興味のない話を無理に聞かされる方だって苦痛だろう。ウェブで表現するメリットのひとつは、自己顕示欲が解消され、日常生活で「自分の話を聞いて欲しい」と、さほど思わなくなることだ。

 いずれにせよ、「よく喋る人」は、他人の話を碌に聴いていない。少なくとも彼らの行動様式が、「対話を通した情報収集」とかけ離れていることは確かだ。

 山田宏哉記

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2012.7.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ