ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3172)

 「使い捨て」の人材戦略

 企業にとって、人材を自前で育成するか、人材を「使い捨て」にするかは、それ自体が高度な経営判断になっている。

 ここ最近は、「日雇い労働」や「派遣切り」が問題になるように、社会全体が「人材使い捨て」の方向にシフトしている感は否めない。

 日本経済活性化の切り札として「雇用流動化」が持ち出されることが多いが、これも「人材使い捨て」への追い風になりそうだ。

 経済合理性だけで考えると、人材を「使い捨て」にした方が良い業種・職種とは「年齢や経験が上昇するにつれて、人材価値が落ちる仕事」と言える。

 「年齢や経験が上昇するにつれて、人材価値が落ちる仕事」の具体例としては、体力勝負の肉体労働、(特に女性が)若さを売りにする商売全般、人気商売全般などがある。

 体力勝負の肉体労働は、「使い捨て」にした方が合理的だ。実際、日雇い労働者はそのような存在である。体力勝負で仕事ができるのは若い頃に限られる。山谷や釜ヶ崎あたりでは、身体にガタがきたかつての日雇い労働者たちが、生活保護受給者に転落している。

 善悪はさて置き、女性の場合、キャバクラ嬢や風俗嬢、AV女優なども、一般に歳を取るにつれて人材価値が落ちる。最後は売れなくなって「使い捨て」となる。これが「若さを売りにする」ということだ。

 人気商売全般は、「鮮度」が大切だ。ミュージシャンなどを見ていると、デビューして、ブレイクして、ピークを迎えた後は、徐々に下降線を辿り、いつのまにか消えていく。音楽そのもののクオリティが上がっても、人々の「飽き」には勝てない場合が多い。

 あまり正面から言う人がいないが、プロのアスリートも、「使い捨ての人材」である。多くは20代でパフォーマンスのピークに達し、その後は年齢に抗いながらも、いずれは「戦力外通告」を受けて消えていく。

 プロのアスリートは経済的には割に合わない商売で、選手生命が10年だとすると、年俸で2000-3000万円稼いでようやく、企業の正社員の生涯賃金と同じくらいになる。しかも、これだけ稼げるプロのアスリートは、殆どいない。

 どこかの球団オーナーが、「たかが選手のくせに」と言っていた記憶があるが、この発言は正しい。プロのアスリートは「使い捨ての人材」だし、生活の安定度はその辺のフリーターと大差がない。

 プロの格闘家などは更に悲惨だ。引退する頃には、網膜剥離で視力がおかしくなったり、脳に打撃を受けすぎて脳障害をきたしたりして、廃人同然になっていたりする。彼らは20代で迎えたピークを「若き日の栄光」として胸に刻んで懐かしみ、「過去の人」になっていく。

 それでは、マクドナルドのような企業は、人材を育成するのが得策か、「使い捨て」にするのが得策なのか。経済合理性だけで判断すると「店長以上は社員として育成」「アルバイトは使い捨て」とするのが理に適っていると思う。実際、その通りになっていると思う。

 「使い捨ての人材」とは言っても、最低限、「給料以上の仕事」をして貰わなければ雇う意味がない。そこで重要になるのが、「使い捨て人材のマネジメント」である。

 「使い捨て人材」を活用する上で肝になるのは、彼らが即席で成果を出せる仕組みだろう。そのために必要なのは、徹底した設備投資とマニュアル主義だ。おそらく未来のマクドナルドでは、アルバイト店員の仕事は「笑顔でいること」だけになる。

 それでは、「使い捨てにされない人材」になるには、どうすればいいのか。

 原理的には「年齢と経験を重ねるほど、より高い成果を出せるようになる」しかない。要するに、体力勝負の若者と同じ土俵で戦ってはいけないのだ。

 確かに、経営戦略として人材育成にコミットしている企業に就職できた人は恵まれている。

 しかし、世の中にはそうではない企業もあるし、企業文化には関係なく「年齢と経験を重ねるほど、より高い成果を出す」というのは、ビジネスパーソンとして譲ってはいけない一線だと思う。

 ところで、「低パフォーマンスで高所得の中高年社員をどう処遇するか」という問題は、日本企業にとって大きな課題と言われる。

 よく言われるのは、解雇規制の緩和や労働条件の引き下げだが、本当に必要なのは彼らの「再戦力化」だろう。

 いくら「人材使い捨ての時代」と言っても、人間に関して「あきらめる」のは、やはり最後の手段にするべきだと僕は思う。

 山田宏哉記

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2012.7.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ