ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3177)

 得意分野の中の得手不得手

 一般に、ビジネスでは「得意分野に集中せよ」と言われる。

 この指摘は、おそらく正しい。僕自身は、文書作成を自分のコア技能と位置付けて、周辺領域の情報収集や編集、ウェブの運営を含めて手掛けている。ある程度、これで結果も付いてきている。

 僕はかつて、日雇い派遣や書店での接客の経験をしたが、こちらは全くダメだった。ひたすら重い物を運ぶのは苦手だし、印象の良い接客や手際の良いレジ打ちなどもできなかった。

 いくら苦手だからと言って、(接客はともかく)僕が今更「重いものを運ぶ訓練」や「手際の良いレジ打ち訓練」をすることに、大きな意味があるとは思えない。第一、今の生活の中では、実践でそれを試す環境がない。

 だから、「苦手分野の克服より、得意分野に集中せよ」というのは、理に適っている。

 「但し」と僕は思う。「得意分野」とは言っても、細かく見ていくと、その中でも得手不得手はある。

 文書作成を例に取ると、僕は中でも、原稿執筆やアウトプットのための情報収集は得意だが、対照的に、校正や校閲は文書作成の中では、苦手な方だ。

 私見では「得意分野の中の不得手な部分」は、放置してはいけないと思う。「文書作成が得意」という評判を得るためには、「誤字脱字や事実誤認が多い」という弱点は潰さなければならない。

 文書作成で言えば、校正より原稿執筆の方が重要であることは当然だが、だからと言って、校正や校閲は決して軽視して良い部分ではない。

 誤植が多い原稿は、それだけで信頼性に欠ける。顧客向けの資料を金額の記載が誤ったままリリースすれば、大事故になる。

 人員に余裕があれば、原稿の執筆者と校正・校閲の担当者を分離することもできるが、人員に余裕がなければ、自分で書いた原稿の校正・校閲をしなければならない。

 ちなみに、文書作成・編集作業と校正・校閲は、求められる意識状態がかなり異なるので、自分ひとりでやる場合、工程を完全に分離した方が良いと思う。

 資料や原稿の提出/入稿/ウェブ掲載等の納期があるとしたら、リリースの数日前には資料・原稿を完成させ、直前は校正・校閲に意識を集中させるのが、成果を最大化する上で重要だと思う。

 いずれにせよ、「得意分野の中の不得手」と「苦手分野」は明確に区別した方がいいと思う。「苦手分野の克服」は後回しでも構わないが、「得意分野の中の不得手を潰す」のは、一定のリソースを割いて取り組むべき課題だと思う。

 また、「得意分野の中の不得手」は優先的に克服した方が、一気通貫で仕事を回すためにも、有利となる。

 「得意分野の中の不得手」があると、「得意分野の中の得手」の足を引っ張ることになる。パンチ力に自信がある格闘家であっても、防御の練習は必須だ。

 僕たちは、他人の得意分野は、あまり細分化してみない。「あの格闘家は、寝技に持ち込めんだ後、三角締めに持っていく流れが絶妙だ」とか議論しているのは、「その世界の人」だけだ。

 仕事のオーダーをする他分野の人は、そこまで細かくは見ない。問われるのは「要するに、その世界で強いのか」であり、参考情報とするのは戦績だ。「三角締めが得意です」だけでは、格闘家としての仕事はやってこない。

 実は、他の分野も同じだ。

 仕事のオーダーを出す側は「この人なら、費用以上に高い成果を出せるだろう」と期待してオーダーを出すのであって、「この人は、この分野が得意だから」という理由でオーダーを出すのではない。

 一見、些細な違いだが、これは絶対に取り違えてはいけない部分だ。

 例えば、文書作成の依頼をする時は、内容はもちろんのこと、校正・校閲の品質の良さも求めている。僕が依頼する側になった時もそうだし、依頼される側になった時も、そうだと考えている。

 どこぞの"大作家"でもない限り、「内容さえ斬新であれば、誤字脱字、事実誤認だらけでも良い」などということはない。

 やはり、得意分野で仕事を受注するためにも、「得意分野の中の不得手」を克服することが必須だと思う。

 それを考えると、僕がこれまで校正・校閲という不得手を放置しがちであったことは、大いに反省しなければならない。

 山田宏哉記

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2012.7.21 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ