ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3181)

 "実務を通した学習"の戦略

 日本企業の職業訓練は、実務を通して仕事を覚えるのが基本とされる。一般にこれはOJT(On-the-Job Training)と呼ばれる。

 実際に仕事を経験する中で、職務遂行能力とキャリアを開発する。この手法は今でも有効だし、仕事を覚える上では、実際に仕事を経験するのがベストであることは間違いないと思う。

 但し、と僕は思う。実務を通して、能力向上をするためには、2つの重要な条件があると思う。

 ひとつは「適度な難易度の仕事」であり、もうひとつは「経験を"自分のもの"にするための心得」だ。この2つのどちらかが欠けていると、期待に見合うだけの能力向上はできないと思う。

 例えば、ひたすらコピー取りと不要文書の処分をするのは、OJTと呼べるだろうか。何年も延々とコピー取りと不要文書の処分を繰り返していて、一人前のビジネスパーソンになれるだろうか。

 確かに、何年もコピー取りと不要文書の処分だけをやっていれば、コピー機とシュレッダーの使い方には、習熟するに違いない。しかし、コピー機とシュレッダーを新しいものに交換した途端、彼の技能の大半は無駄になるのではないだろうか。

 残念ながら、実務を通してどれだけ成長できるかは、運の良し悪しが大きく影響する。職場に「適度な難易度の仕事」があるとは限らないし、その仕事を自分が担当できる保障もない。

 受動的な態度では「適度な難易度の仕事」を手掛けられない場合、「自分で仕事を作る」のが有効だ。

 もっとも、組織にとって価値のある仕事を自力で生み出すのは、それ自体が高度な実務能力となる。それでも、運の良し悪しの影響力を低下させるためにも、是が非でも「自分で仕事を作ることができる」という実務レベルには達したい。

 また、経験は豊富でも、それに相応しい見識や能力を身につけていない人もいる。そういう人は、仕事を「やりっ放し」になっていて、然るべき反省や問題点の改善をしていない。

 要するに、経験したことが有効活用されず、無駄になっている。

 経験を「自分のものにする」ためには、「イメージで記憶し、言語で記録する」のが有効だと思う。これは競争優位に直結する部分なので、手間を惜しむべきではない。

 経験という希少資源を最大限に活かすためには、「経験の振り返り」が欠かせない。

 学生時代、僕は某出版社でアルバイトをしていたが、その時、ワンマン社長の指示で毎日、業務日誌を書いていた。労働基準法を無視するブラック企業だったが、「業務内容を内省して、言語で表現する」という経験には一定の効果があった。

 「適度な難易度の仕事」を手掛け、その経験を"自分のもの"にする。これが実務を通して学習する上でのキーポイントだと僕は考えている。

 山田宏哉記

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