ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3183)

 大衆化するビジネススキル

 山本真司(著)『30歳からの成長戦略』(PHP)と『20代 仕事筋の鍛え方』を読んだ。

 普段、僕が考えたり、薄々感じていることと重なる部分も多かった。特に「大衆化するビジネススキル」というコンセプトは非常に重要だと感じた。

 唐突だが、「ビジネススキル」なるものは、実在するのだろうか。そして、仕事をするのに「ビジネススキル」なるものは、必要なのだろうか。

 僕自身は「ビジネススキルを身に付けた」という自覚はないし、「仕事をするために、ビジネススキルを身に付けなければならない」と感じることもない。個人的にはビジネススキルの話は、現場の実務とはあまり関係がないような気がする。

 私見では、ビジネスパーソンが競争優位とすべきは「学習能力そのもの」であって、特定の技能や知識を習得することではない。

 固定化された知識や技能だけでは、変化の時代に対応できない。競争優位となる知識や技能があっても、すぐに知れ渡り、真似され、大衆化する。

 むしろ問われているのは「あるテーマの知識と技能が必要になった瞬間から、最小限の時間で知識と技能を習得する能力」だと思う。

 いや、本当はこれすら、さほど重要ではないかもしれない。

 なぜなら、これらはいずれも「ソフトウェアの議論」だからだ。そして、ソフトウェアは、簡単にコピーすることができる。

 結局のところ、ビジネスパーソンの勝負は、ビジネススキルのようなソフトウェアの部分では、決定的な差が付かない。また、一旦差が付いても、比較的容易に真似することができる。

 ビジネススキルが大衆化するほど、ビジネスパーソンの優劣は「脳の基本性能と広義の身体能力」で決まるようになる。要するに、脳と身体という"ハードウェア"の勝負になるのだ。

 振り返ると、かつて労働とは身体を動かすことだった。身体が丈夫で、基礎体力があることが、競争優位につながった。

 その後、ホワイトカラーによる事務が広がり、「知識と情報」が大きな価値を持つようになった。ビジネスの競争優位も、ハードウェアからソフトウェアへと移行した。

 そして今、ウェブの普及により、「知識と情報」の相対的な価値が大きく下落した。私見では、ビジネスの競争優位は、ソフトウェアからハードウェアへと、振り戻しが起きている。

 実務の現場では、ストレス耐性や集中力の持続時間、案件完遂への意志の強さなどで、勝負が決することが多い。

 これはビジネススキルの問題というより「脳の基本性能と広義の身体能力」の問題だ。弱者は重圧のかかる環境だと、頭痛や体調不良で戦線を離脱する。

 職場が「戦場」になるタイミングで、頭痛や体調不良を起こす人は、その時点で既に負けている。しかも、敗者はこれを「素質や体質のせい」にする。

 「脳の基本性能と広義の身体能力」が優れていれば、重圧が高い環境下でも、頭痛や体調不良で戦線を離脱することはない。

 現時点で、脳にどのようなソフトウェアを積んでいるか。それは大した問題ではなく、大切なのは脳の基本性能が良いことだ。

 マシン性能さえ良ければ、今後、どのようなソフトウェアでも高速でインストールして、使いこなすことができる。

 特に若い頃は、「大衆化するビジネススキル」には背を向け、「脳の基本性能と広義の身体能力の向上」に資源を集中投資するのが得策だと思う。

 もっとも、そのためには個別具体的な経験(試練の場)が欠かせない。

 言い古された言葉だが、「目の前の仕事に全力で打ち込め」という若手への助言は、実は理にかなっていると僕は思う。

 山田宏哉記

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