ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3184)

 競争優位としての"生活圏" 

 ウェブが普及する前の日本では、「上京」という言葉が一定の響きを持っていたと思う。

 野心のある若者は、閉鎖的な故郷の村を出て、東京で一旗上げるべく、日々格闘する。実体はともかく、僕たちはそんな物語を共有していたような気がする。

 僕も10代の頃、どこかで「東京で一旗上げる」という感覚を持っていた。だからこそ、東京の大学に進学することが暗黙の前提だった。

 なぜ、東京だったのか。実は明確な理由は説明できない。ただ、自分の可能性を試す場所として、日本には東京以上の場所はないと思っていた。また、東京には自分の可能性を試すだけの環境があると思っていた。

 僕は学生時代の途中から、高田馬場で下宿をはじめ、社会人2年目からは大森に住んでいる。

 その間、時は流れ、東京に対する僕たちの認識も、少なかれず変わった。

 ウェブの普及によって、「住む場所や働く場所はあまり関係ない」という価値観が台頭し、今では「上京」とか「東京で一旗上げる」と言うと、少しピントが外れているようにみえる。

 僕は現在、東京の大森を中心に生活している。通勤は徒歩の時間を含めて片道30分くらいだ。

 実を言うと、僕はこの通勤圏の環境に、かなり満足している。

 仕事の後に観にいける映画館は3つある。仕事の後の時間帯だと、レイトショーになり、\1,200くらいで鑑賞できることが多い。

 通勤圏には、値段の割には湯質の良い温泉もある。仕事で疲れたときは、温泉に立ち寄ることも結構ある。

 僕は、スポーツクラブの会員でもあり、仕事後にヨガのレッスンを受けたり、サウナで汗を流すことも結構ある。

 通勤圏に新古書店のブックオフは、3店舗ある。僕は、ブックオフにもちょくちょく行く。

 そして、充分な睡眠時間を確保する。

 人によっては、全然魅力的な環境ではないだろうけど、上記のような点は、僕にとってとても重要なことだ。

 平日の仕事の後に、映画鑑賞をしたり、ヨガのレッスンを受けたり、サウナや温泉で汗を流したりする。そして、通勤時間を約30分に抑えている。

 実を言うと、これが僕の仕事上の競争優位に直結している。

 平日、仕事を終えた後、普通の人が休日にするようなことをしているので、翌日に疲れを持ち越さずに済んでいる。満員電車で無駄に体力を消耗することもない。

 諸般の事情で、横浜の東戸塚に住んでいた時は、このような生活環境ではなかった。

 近所に映画館も見当たらなかったし、通勤圏に温泉やブックオフもなく、おまけにバス通勤でイライラすることが多かった。"陸の孤島"のような場所で、電波も届きにくく、これもストレスの原因になった。

 冷静に振り返ると、このような生活環境は仕事のパフォーマンスにも悪影響を与えたと思う。

 「どこに住むか」という問題は、とても重要だし、これは仕事のパフォーマンスにも大きな影響を与える。特に通勤に長時間かかる人は、それだけ不利な戦いを強いられる。

 必ずしも、若者が東京を目指す時代ではない。

 だけど、依然として「どこに住むか」は、仕事のパフォーマンスに直結する問題だ。しかも、"生活圏"は、他人のコピーがしにくく、差別化がしやすい部分だ。

 だからこそ、「"生活圏"を競争優位に結びつける」という発想は、益々、重要になってきていると僕は考えている。

 山田宏哉記

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