ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3185)

 上を見る人、下を見る人

 先日、東京都写真美術館にて「世界報道写真展2012」を鑑賞した。

 個人的に印象に残ったのはイランの公開処刑の写真だった。インパクトがあったのは、目隠しされた4人の"犯罪者ども"が吊るされた写真だが、一方で公開処刑を見にきた野次馬たちの写真にも色々と考えされた。

 イランで公開処刑を見に集まった群衆は、きっと"正義を願う善人"なのだろう。但し、僕には彼らの表情が、処刑される"犯罪者"以上に卑しく見えた。

 自分よりも下の人を見て安心することを、下方比較と呼ぶ。下方比較のコンテンツには、常に一定の需要がある。公開処刑もそのようなコンテンツのひとつで、人民の不満のガス抜きになる。

 自分よりも劣った人を見て「俺はあいつらよりはマシだ」と安心するのは、生産的だろうか。当然、全く生産的ではない。

 本人にとっては、虚栄心が満たされ、癒しの効果はあるかもしれないが、世の中に対して、何も有益なものを生み出さない。

 現在、このような「下方比較」の心理は、日本中を覆っていると僕は思う。

 マスメディアには、次々と不幸な人々や悲惨な事件が登場する。エンターテイメントとしての不幸は、人々の下方比較の欲求に答える。僕たちは「自分はあいつらよりはマシ」と思えるようなコンテンツを求めているのだ。

 「社会問題に関心がある」とは、言い換えると、自分よりも下の人の不幸を、エンターテイメントとして楽しむことだ。

 ウェブを眺めていると、下を見る人に顕著な行動のひとつは、「匿名で犯罪者とその家族を叩く」というものだ。どうせ逆らえない人を、人民裁判にかけて、なぶり殺しにする。きっと彼らは、正義の味方なのだろう。

 ボランティアもまた下を見る人と言える。ボランティアは必ず、自分よりも恵まれない人に対して行われる。ボランティアをすると、下方比較の欲求が満たされ、それ自体が大きな報酬となる。

 だから、ボランティアは金銭的には無償でも、多くの人が参加を希望する。

 他人と比較することで、自分の位置を確認するのは、ごくありふれたことだ。そして、「上を見れば切りがない」のと同様に「下を見ても切りがない」。その是非を問題にするのは、ナンセンスかもしれない、

 但し、少なくとも上を見る人と下を見る人では、他人と比較する目的が違うし、その後の行動も違ってくる。

 上を見る人は、自分よりも優れた人をベンチマークとすることで、その人の行動を見習う。下を見る人は、自分よりも劣った人を見て、「俺はあいつらよりはマシだ」と安心する。

 どうせ他人と比較するなら、自分よりも格上の人間と比べ、自分の至らない点を改善した方が、よほど有益だと僕は思っている。

 山田宏哉記

【関連記事】
大衆化するビジネススキル (2012.8.4)
映画『マネーボール』に学ぶ人材戦略 (2012.7.28)
"実務を通した学習"の戦略 (2012.7.27)
なぜ、他人を見下すのは楽しいのか (2012.7.23)
椅子取りゲームの自己責任論 (2012.7.23)
決断から逃げる完璧主義者 (2012.7.18)
「組織の歯車」からの脱却 (2012.7.17)
苦労はアピールするものだ (2012.7.13)
「使い捨て」の人材戦略 (2012.7.12)
「よく喋る人」は他人の話を聞いているのか (2012.7.11)
プールにこぼしたコーヒーをどう回収するか(2012.7.8)
学生がアルバイトをすべきでない理由 (2012.7.7)
「何もしない方がマシ」という失敗 (2012.7.2)
瀧本哲史(著)『武器としての交渉思考』覚書(2012.6.30)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
なぜ、日本企業は社員の自己研鑽を嫌うのか (2012.6.20)
"雑魚キャラ"が果たす役割
(2012.6.19)
虚構・秋元某の女衒術 (2012.6.16)
営業とマーケティング - 訪問販売と集客の戦略 - (2012.6.13)
「工場閉鎖」のシナリオに備えよ (2012.6.12)
日系ブラジル人の街 群馬県大泉町探訪記 (2012.6.11)
優遇される人材、冷遇される人材 (2012.6.9)
"鶏口牛後"は本当か (2012.6.9)
「成長機会」の格差論 (2012.6.8)
自滅する労働貧困層 (2012.6.7)
あの人が嫌われる理由 (2012.6.4)
新参者の心得 -いかに組織に適応するか-
(2012.6.3)
知識と実務のあいだ -学校秀才は"仕事で使えない"か-
(2012.6.2)
「結果が全て」の世界で生きる (2012.5.29)
ノマドが嫌う日本企業(2012.5.27)
なぜ、あの人は長時間残業をするのか(2012.5.26)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
いかに"集中力"を発揮するか(2012.5.23)
辺境からの企画論(2012.5.20)
高橋俊介(著)『21世紀のキャリア論』覚書(2012.5.20)
競争優位としての"集中力"(2012.5.19)
ビジネスパーソンがヨガをするべき理由(2012.5.14)
岩盤浴の秘密 ―なぜ、女性に人気なのか―(2012.5.13)
ヤンキー文化圏の幸福な人生(2012.5.11)
学習能力向上の戦略(2012.5.1)
性的リソースの分配論(2012.5.1)
"才能の優劣"を考える(2012.4.15)
ビジネスに活かす「サル山の論理」(2012.4.7)
"自動改札機の導入"で消える仕事を考える(2012.3.3)
"人間関係のシャッフル"を考える(2012.2.22)
「異性のパートナー選び」に活かすマーケティング(2012.2.12)
実務家からみた"学校教育の本質"(2012.1.3)
プレイボーイはビジネスの強者か?(2012.1.1)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)
"就活イベント"のビジネスモデル(2011.12.18)



2012.8.4 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ