ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3189)

 つぶしが効く職業、効かない職業 

 職業に貴賎はないが、"パワーバランス"は存在する。職業間の転向が、得てして片道切符となるのは、「力の強い職業」と「力の弱い職業」が存在するからだ。

 私見では「つぶしが効く職業」の重要な条件として、「職務として日本語(言語)を使う」ことと「会話が商売道具になっている」ことがあると思う。

 一般の会社員は職種によって若干の差はあるが、この条件を満たすため、基本的には「つぶしが効く」職業だ。

 対照的に画家、演奏家、スポーツ選手、工場労働者、掃除屋、バイク便ライダー、トラック運転手、職人全般などが当てはまるだろう。これらの職業は総じてつぶしが効きにくい。「人と話すのが嫌いだから」といった理由で安易に選ぶのは危険だ。

 また、スポーツで言うと「道具」を使う種目、ビジネスで言うと「設備」を使う仕事は、つぶしが効かない傾向がある。

 運動をする場合、陸上、体操、水泳、ヨガ、武術(柔道、空手、拳法などの体術)など「身体ひとつ」でできる種目の方が経験を別競技に転用しやすい。

 運動種目の中で「道具」を必要とする球技全般、武器術(剣道や杖術など)、スキー/スノーボード、マリンスポーツなどは「専門用具の使い方」に習熟するため、多くの時間が必要となる。汎用的な身体能力の占める割合が少ないため、別競技への転向は困難だ。

 これは職業にも当てはまる。

 ビジネスで言う「設備」を必要とする職業には工場労働者全般、鉄道運転手、原発作業員、宿泊施設スタッフなどがある。「専用設備の使い方」に習熟することは、特定の企業の中でしか役に立たない場合が多く、つぶしは効きにくい。

 運動種目と同様、職業選択においても、まずは「身体ひとつでできる仕事」から始めるのが得策だと僕は思う。

 数年前、「派遣切り」にあって、路頭に迷ったのは、自動車工場で働く作業員たちだった。事務系の派遣者が路頭に迷ったという話は聞かなかった。問題なのは不安定な雇用より、むしろ「自動車工場の作業員は"つぶしが効かない"」ことではないか。

 一般に「手に職をつける」ことが推奨されるが、「言語能力を身につける」ことを優先した方が、得策だと思う。言語能力が高ければ、一般企業の営業、広報/宣伝、マーケティング、法務、人事/総務、顧客サポート部門あたりの担当は務まる(たぶん)。

 「職務としての日本語使用」「商売道具としての会話」の次に分岐点となるのは「体力勝負の度合い」だと思う。長時間労働や休日出勤、睡眠不足の環境下で戦うのが得意なのか、苦手なのか。これによって、職業選択の幅が違ってくる。

 体力勝負の職種(飛び込み営業、介護、戦略系コンサルタント、小売/外食店長など)から体力勝負が不要の職種(企画、研究、閑職全般)に転向するのは可能だが、その逆は難しい。従って、まずは体力勝負の職種を狙った方がつぶしが効く。

 体力勝負の次の分岐点は「情報/数字/データを扱う職種」とそれ以外になる。高収入を得るためには外したくない条件だ。財務やIT系の職種がこの代表格であり、一般的な介護や接客はここで脱落する。経理と介護で迷ったら、経理の方がつぶしが効く分有利になる。

 もちろん、今の自分の職業が"天職"であり、生涯現役を続けられるのであれば、"つぶし"のことなど考える必要はない。ただ、そのように恵まれた立場の人は、決して多くないと僕は思っている。

 山田宏哉記

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2012.8.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ