ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3189)

 "グローバル人材"を目指さない 

 昨今、猫も杓子もグローバル化を叫んでいる。

 企業にとっては、いかに"グローバル人材"を確保するかが重要な経営課題になり、ビジネスパーソンが生き残るためには、"グローバル人材"になることが不可欠であるように言われている。

 では、"グローバル人材"とは、一体どのような人材なのか。あまり厳密に定義を聞かないが、おおよそ以下のようなイメージの人材と言っていいだろう。

1. 日本の優良企業に採用された幹部候補生。
2. 外国語(特に英語)を自由に使いこなし、外国人と共に仕事をすることができる。
3. 海外に勤務し(または頻繁に海外出張し)、現地での事業の立ち上げまたは運営に貢献することができる。

 おそらく、上記3つの条件を満たしていれば、"グローバル人材"と呼んでも違和感はないと思う。

 但し、ここで区別しておきたいことがある。企業が人材戦略としてグローバル人材の育成を掲げることと、ビジネスパーソン個人がキャリア戦略としてグローバル人材を目指すことは、違うということだ。

 もっとハッキリ言うと、僕は企業が人材戦略としてグローバル人材の育成を掲げることは重要だと思うが、個人としてグローバル人材を目指す必要性はあまりないと思っている。

 少なくとも、僕自身はグローバル人材を目指していない。

 例えば、「グローバル人材を目指す」ための具体的な努力とは何か。多くのビジネスパーソンがイメージするのは、英会話学校に通い、TOEICでより高いスコアを獲得することだと思う。

 だが、僕は「業務で必要にならない限り、"英語の勉強"にはあまり時間を投資すべきでない」と考えている。

 経験的に言って、英語の勉強などをするより、仕事そのものに集中し、実績を出した方が投資対効果が遥かに高い。

 そもそも、日本で生活するなら、英語を使わなくても生きていける。

 むしろ、日本語の文書は漢字かな混じりの文体を使用しているため、英語よりも情報密度が高く、速く読める。情報収集は日本語を基本とした方が、時間を節約できる。

 2000年代で言うと、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』やタレブの『ブラックスワン』のように、海外で大きな反響を与えた書籍は、日本語に翻訳されるケースが多い。

 特に必要もないのに英語を勉強するより、日本語の"恵まれた環境"を最大限に活用した方が成果に結びつく。

 日本語で読める書籍をわざわざ英語で読むのは、一種の"衒学趣味"であって、「俺は英語ができる。俺は頭がいい」とアピールしたい人がすることだ。決して、実用本位の姿勢ではない。

 そもそも、仕事の実績を出せない限り、いくら英語の勉強をしても、グローバル人材の条件である項番1の「幹部候補生」という条件を満たせなくなってしまう。

 海外で働く非エリート層は、通常、グローバル人材ではなく、出稼ぎ労働者と呼ぶ。日本人が中国のコールセンターで時給\300で働くような世界だ。

 私見では「グローバル人材になれるか、なれないか」は、個人のキャリアの問題というより、企業の事業領域と人材戦略で決する面が大きい。

 結果的になることはあっても、あまり自ら目指すものではないと僕は思う。

 それはちょうど「上司から高い評価を得ること」を目的に仕事をするべきではないのと、同じようなものだ。

 皮肉なもので、僕の場合、評価を目的に働いていた時ほど評価が低く、評価を気にしないで働いていた時ほど評価が高かった。要するに、フォーカスすべきは、あくまで「顧客のために価値の高い仕事をすること」だったのだ。

 もちろん仕事で実績を残した結果、例えば企業のグローバル人材育成リストに名前を連ね、各種のチャンスが回ってくるかもしれない。一方、そんなチャンスはないかもしれない。精神衛生上、あまり気にしないのが一番だ。

 グローバル人材。世間では騒がれているが、自分のコントロール範囲外のことが多い以上、個人のキャリア戦略として掲げるものではないと思う。

 山田宏哉記

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2012.8.24 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ