ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3200)

 「人間好き」のファシズム 

 海老原嗣生(著)『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)を読んで、非常に重要な示唆を受けた。「対人折衝の要/不要」を切り口にして、仕事を分類する手法だ。

 海老原氏によれば、ニート、フリーターや早期離職した人は、工場内労働など「人と接しない仕事」に流れ着く例が多いようだ。

 ただ、現代日本においては、産業構造の変化で「人と接するのが少ない仕事」(典型例は工場内労働)は、どんどん日本国内から消えている。

 「人と接する仕事がしたい」と言う人がいる。一方で、同様に「人と接する仕事はしたくない」と考えている層も一定数はいるはずだと僕は思う。

 学生時代、僕が日雇い労働をやっていた根本的な理由は、「人間嫌い」だったからだと思う。だから、「人と接しない仕事」が隠れた人気を集めるのは、体感的にわかる。

 本音ベースの話をすれば、職業選択の志望動機が「人間嫌いだから」という人は、意外と多いと思う。

 「人間嫌い」は先天的な資質かと言うと、そうでもない。私見では、不遇な若年時代故の「麻疹」のようなもので、訓練や研鑽次第で、案外簡単に裏返る。

 苦手だったビールが、いつの間にか美味しく感じるようになるようなものだ。

 例えば、学生時代、僕は就職活動で企業に電話を掛けるのが、とても苦手だった。もちろん、今は企業に電話を掛けることくらい、何でもない。長らく「苦手だ」と思っていたことは、実は単に「経験が足りない」だけだった。

 もちろん、麻疹をこじらせて、「人間嫌い」のままで歳を重ねてしまう人もいる。

 そして、現代日本では、「人間嫌い」の人が淘汰されるようになってきている。従来は「人間嫌い」の雇用吸収先だった職種(工場内労働、建設業、日雇い派遣、職人など)がどんどん海外に流出している。日本国内に残るのは、「人と折衝する仕事」に限定されつつある。

 ダイバーシティ(多様性)が叫ばれるご時世ではあるが、その中に「人間嫌い」は含まれない。「人間嫌い」は排除または矯正の対象となるため、誰しも自分が「人間好き」であることをアピールしなければならない。

 潜在的には、パーティや宴会の席で、楽しそうに振舞うことに気疲れする人は、結構いると思う。

 人見知りをする人は、軽度の「人間嫌い」だと思う。イジメに快感を覚えたり、「人の不幸は蜜の味」と感じたりするのも、たぶん根本的には人間が嫌いだからだろう。

 むしろ、純粋に「人間が好き」と言い切れる人は、実は少数派ではないかと思う。

 「人間嫌い」が働いて生計を立てるために最も必要としているのは、「人と接しない仕事」だと思う。最近流行りのノマドのポジションだけでは、「人間嫌い」のニートやフリーターたちを養うことはできない。

 更に言えば、そもそも、都市は他人と最小限の関わりで生きていけるように設計されている。田舎の人間関係の息苦しさに耐えられない人には、都会での生活が合っている。故郷から逃れるように上京して来た人などは、基本的に「人間嫌い」なのだと思う。

 学生のアルバイトにしても、接客業を避けて、倉庫内作業などに応募する人は、自分の感情に正直になるべきだろう。無理に「人間好き」の振りをする必要はない。

 たぶん、「人間好き」の振りをして、「友達をたくさん作らなくてはいけない」みたいな強迫観念を持つから苦しいのだ。

 この際、自分が「人間嫌い」だと素直に認めてしまえば、それだけで随分と生きやすくなると思う。

 山田宏哉記

【関連記事】 チームワークは必要か (2012.9.15)

強者はデモに参加するか(2012.9.15)
映画『桐島、部活やめるってよ』覚書(2012.9.11)
基幹人材の条件(2012.9.10)
なぜ、日本企業の労働生産性は低いのか(2012.9.8)
「実務能力の頭打ち」を突破する(2012.9.8)
自転車に乗れるまで(2012.9.4)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
つぶしが効く職業、効かない職業(2012.8.22)
人生の岐路、つぶしが効く選択(2012.8.11)
"コピー機の導入"と抵抗勢力 (2012.8.11)
人生の岐路、つぶしが効く選択
"コピー機の導入"と抵抗勢力 (2012.8.11)
評価指標の設定と運用 (2012.8.11)
上を見る人、下を見る人 (2012.8.6)
大衆化するビジネススキル (2012.8.4)
映画『マネーボール』に学ぶ人材戦略 (2012.7.28)
"実務を通した学習"の戦略 (2012.7.27)
なぜ、他人を見下すのは楽しいのか (2012.7.23)
椅子取りゲームの自己責任論 (2012.7.23)
決断から逃げる完璧主義者 (2012.7.18)
「組織の歯車」からの脱却 (2012.7.17)
苦労はアピールするものだ (2012.7.13)
「使い捨て」の人材戦略 (2012.7.12)
「よく喋る人」は他人の話を聞いているのか (2012.7.11)
プールにこぼしたコーヒーをどう回収するか(2012.7.8)
学生がアルバイトをすべきでない理由 (2012.7.7)
「何もしない方がマシ」という失敗 (2012.7.2)
瀧本哲史(著)『武器としての交渉思考』覚書(2012.6.30)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
なぜ、日本企業は社員の自己研鑽を嫌うのか (2012.6.20)
"雑魚キャラ"が果たす役割
(2012.6.19)
虚構・秋元某の女衒術 (2012.6.16)
営業とマーケティング - 訪問販売と集客の戦略 - (2012.6.13)
「工場閉鎖」のシナリオに備えよ (2012.6.12)
日系ブラジル人の街 群馬県大泉町探訪記 (2012.6.11)
優遇される人材、冷遇される人材 (2012.6.9)
"鶏口牛後"は本当か (2012.6.9)
「成長機会」の格差論 (2012.6.8)
自滅する労働貧困層 (2012.6.7)
あの人が嫌われる理由 (2012.6.4)
新参者の心得 -いかに組織に適応するか-
(2012.6.3)
知識と実務のあいだ -学校秀才は"仕事で使えない"か-
(2012.6.2)
「結果が全て」の世界で生きる (2012.5.29)
ノマドが嫌う日本企業(2012.5.27)
なぜ、あの人は長時間残業をするのか(2012.5.26)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
いかに"集中力"を発揮するか(2012.5.23)
辺境からの企画論(2012.5.20)
高橋俊介(著)『21世紀のキャリア論』覚書(2012.5.20)
競争優位としての"集中力"(2012.5.19)
ビジネスパーソンがヨガをするべき理由(2012.5.14)
岩盤浴の秘密 ―なぜ、女性に人気なのか―(2012.5.13)
ヤンキー文化圏の幸福な人生(2012.5.11)
学習能力向上の戦略(2012.5.1)
性的リソースの分配論(2012.5.1)
"才能の優劣"を考える(2012.4.15)
ビジネスに活かす「サル山の論理」(2012.4.7)
"自動改札機の導入"で消える仕事を考える(2012.3.3)
"人間関係のシャッフル"を考える(2012.2.22)
「異性のパートナー選び」に活かすマーケティング(2012.2.12)
実務家からみた"学校教育の本質"(2012.1.3)
プレイボーイはビジネスの強者か?(2012.1.1)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)
"就活イベント"のビジネスモデル(2011.12.18)



2012.9.15 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ