ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3204)

 ソーシャルゲームの廃人は何を求めるのか

 クローズアップ現代 「ソーシャルゲーム 急成長のかげで」(2012年9月25日放送)を視聴した。

 市場規模2800億円(2011年)のソーシャルゲーム業界の舞台裏をレポートした番組で、色々と考えさせられる点があった。

 特に印象に残ったのは、番組出演した30代男性会社員と男子高校生の"ゲーム廃人"たちだった。ソーシャルゲームに没頭しすぎて、時間と大金をつぎ込み、日常生活にも支障をきたすようになっていた。大変失礼ながら、いずれも負け犬の臭いがした。

 ゲーム廃人の方々は番組で「これまでに150万円使ったので、今更やめられない」「(ソーシャルゲームの世界は)努力が報われる」などと証言していた。

 未経験ながら、これまで僕は、ソーシャルゲームが提供しているのは「単なる娯楽」だと考えていた。しかし、この認識は間違っていた。

 ソーシャルゲームが売っているのは「自分に向けられる誠実な関心」であり、「他人との競争に勝つことで得られる優越感」なのだ。このためにこそ、人はソーシャルゲームに時間と大金をつぎこむ。

 学力が低く、異性にもモテない若者たちは、実生活では競争に敗れ、劣等感ばかりを味わっている。大金を払ってでも、勝利と優越感が欲しいのだ。誰かに認められたいのだ。
この部分こそ、ソーシャルゲームのビジネスモデルの本当の核心部分だと思う。

 特に「努力(=カネを払うこと)が報われる」というのは、重要な点だ。ゲーム内では、努力する(=カネを払う)ことで、他人との競争に勝ち、優越感を得られる。少なくともその瞬間だけは、惨めな実生活を忘れることができる。

 勉強ができる/できない、恋愛ができる/できない、のマトリックスで考えると、ソーシャルゲームは当然「勉強ができない、恋愛ができない」層をメインターゲットにしている。なにしろこの層は、大金をはたいてでも、自尊心や勝利の優越感を買うのだ。

 学校では、ガリ勉(勉強できる/恋愛できない)とヤンキー系の不良少年少女(勉強できない/恋愛できる)が対立しているようなイメージがある。現実には、その他に勉強できる/恋愛できるのエリート層と勉強できない/恋愛できないの負け犬層がいる。

 堤未果(著)『社会の真実の見つけかた』(岩波ジュニア新書)によると、アメリカ軍のリクルーターの口説き文句は「君の夢は何だい?」だそうだ。

 貧困層の生徒たちは、親や教師から将来の夢など聞かれない(「どうせ聞いても仕方ない」と思われている)。だからこそ彼らは、自分に向けられる誠実な関心や将来の夢を語れる場所に飢えている。

 いまや日本も若者に「活躍の舞台」と「努力する者が報われるシステム」を用意できなくなった。

 仮想空間であれ、ソーシャルゲームはこの2つを若者に提供している。「一方的に業者が悪い」というわけでもないような気がする。

 「自分に向けられる誠実な関心に飢えている」というのは、おそらくソーシャルゲームに没頭する廃人たちにも共通している。

 だからこそ、負け犬層(勉強できない/恋愛できない)には、精神商材(宗教、愛国心、自己啓発、ソーシャルゲームなど)が魅力的に見える。

 そして、実生活で自尊心を持てない負け犬の若者たちは、ソーシャルゲームのメーカーや軍隊に自尊心をくすぐられて、お金と時間、時には生命を差し出すことになるのだ。

 山田宏哉記

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2012.9.30 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ