ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3208)

 議論をしない力

 社会人になってから、僕は議論をする時と場所を、狭く限定するようになった。

 僕は普段、組織にとっての重要テーマ以外は、基本的に議論しない。理由は単純で「どうでもいいテーマで議論しても、メリットがないから」だ。

 議論をする以上、「自分の提案を通す」とか「予算を獲得する」といった具体的な目的を念頭に置くことが大切だと思う。議論をするのは、目的を達成するための手段であって、議論そのものが目的ではない。

 だから、日常生活では、基本的に議論はしない。

 実生活で議論する必要があるのは、おそらく「権力(権限)を行使する場面」に限定されると思う。言い換えれば「他者を強制的に従わせる必要がある場面」であり、それ以外の場面では極力、議論は避けた方が得策だと思う。

 実生活における「権力を行使する場面」の具体例としては、価格交渉やクレームの電話、市民運動や法廷闘争などが挙げられるだろう。

 仮に友人の考えが自分と異なっていたとしても、いちいち「その考えは間違っている!」などと言うつもりはない。よほど酷い考えでない限り、大抵「ふぅん」で済む話だ。

 また、ウェブで議論を吹っかけられた場合も、「論破しよう」とは思わない。

 ウェブで議論するのは「賭け金のないギャンブル」をするようなものだ。勝っても具体的なメリットはなく、「相手を論破した」という自己満足しか残らない。負けたら負けたで「嫌な気分」だけが残る。

 振り返れば、僕は学生の頃、やたらと他人に突っ掛っていた。議論に負けることは屈辱だと思っていた。自己顕示欲を上手くコントロールすることができず、虚勢を張って生きていた(今はこれでも多少、性格が改善したと思う)。

 ではなぜ、「議論したい、論争に勝ちたい」という感情を抑えることができるようになったか。

 抜本的な理由は、小さいながらも実績を積み重ね、自己評価と他者からの評価の乖離が縮小したからだと思う。

 その結果、殊更、自分を大きく見せる必要がなくなった。肩の力が抜けて「議論に負けても構わない」と思えるようになった。

 今日もまた、至るところで議論本来の目的から離れ、自尊心を賭けた議論が行われている。

 「議論に勝った、論破した」と悦に入る勝者の傍ら、観客はとっくに白けていて、まともな人ほど彼の元を去っていく。

 実社会では、「議論に勝つ力」よりも、「議論すべき場面」を限定し、無用な挑発に乗らない「議論しない力」の方が、遥かに大切なのだ。

 山田宏哉記

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2012.10.8 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ