ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3210)

 世界は"不本意な職業"で溢れている

 求人情報誌をめくると、「この仕事は面倒そうだな」と感じる求人案件が並んでいる。

 特に求人案件が多いのは、接客・営業・介護・運送・警備・トイレ掃除・倉庫内作業などの分野であり、"クリエイティブな職業"の求人案件は圧倒的に少ない。

 そもそも、職業が職業として成立するのは、なぜか。

 それは「需要があり、お金を払う人が存在するから」であり、決して「やりたいと思う人がいるから」ではない。

 それでは人は、何を自分でやり、何を他人にしてもらいたいと思うか。

 ごく単純に言えば、面白いことは自分でやり、面倒でつまらないことは他人にしてもらいたいと思う。だから、職業として成立するのは、基本的に「面倒でつまらないこと」になる。

 そういう仕事だからこそ、「金を払ってでも、他人にしてもらいたい」と考えるのだ。

 自分が雇う側に立った時、やりがいのある仕事を、高い報酬を払って、他人にしてもらいたいと思うか。たぶん、思わない。

 つまらない仕事は、報酬が高くないと人が集まらないかもしれない。

 しかし、やりがいのある仕事であれば、低い報酬(場合によっては無償)でも希望者が殺到する。極端な話、「嫌なら辞めればいい。代わりはいくらでもいる」という世界だ。アニメ製作の現場などは、まさにその典型例だ。

 お金を払って人材を活用する立場から考えると、最重要のポイントは「いくら払えば、この仕事をする人材を獲得できるのか」になる。始めに予算ありきで、通常は「この人は、質が高い仕事をするから、報酬を高めにしよう」などとは考えないだろう。

 求人の論理は、不動産の賃貸物件を借りる時と似ている。払える毎月の家賃には限りがあり、いくら良い物件でも、予算をオーバーしたら契約は見送るしかない。

 賃貸物件の借り手が「なるべく良い物件を、なるべく安く借りたい」と考えることと、経営者が「なるべく良い人材を、なるべく安い給料で働かせたい」と考えることは、実は同じことなのだ。

 商品やサービスが「値下げ競争」を強いられるのと同様、人材も「値下げ競争」を強いられている。

 それではなぜ、職業によって、給料の額が違うのか。

 経済合理的に考えると、賃金格差は「調達コスト」の大小によって生まれる。給料の安い職業ほど人材の調達が容易(要件を満たす人が多い)であり、給料の高い仕事ほど人材の調達が困難(要件を満たす人が少ない)になる。

 世界は"不本意な職業"に溢れていて、やりがいのある仕事は少ない。仮にあったとしても、人が殺到するので、薄給激務での競争となる。

 これは理不尽だろうか。たぶん、そうではない。職業が職業として成立する条件を考えれば、これはごく当たり前のことなのだ。

 山田宏哉記

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2012.10.15 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ