ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3211)

 ルサンチマンのある人生

 一般に、弱者が強者に対して抱く怨恨を「ルサンチマン」と呼ぶ。程度の差はあれ、誰しもルサンチマンに似た感情は、持っていると僕は思う。

 特に男は、幼い頃から競争に晒される。

 学校では、成績が良い生徒、運動ができる生徒、異性に人気のある生徒が、勝者として幅を効かせる。敗者は肩身の狭い思いをせざるを得ない。

 多分野での競争に勝ち続けるのは難しい。勉強、運動、恋愛といった異なる分野では、勝ち抜くための要件や能力が違ってくる。全てを兼ね備えた人は滅多にいない。

 いくら能力に恵まれていても、運/不運という要素もある。希望した通りの進学先、職業、異性のパートナー等を得られる確率は低く、多くの人は不本意な選択を迫られる。

 更にいえば、生まれた時代/国/人種/民族/家庭などは、自分で選択したものではない。にもかかわらず、本人の人生に多大な影響を与える。この意味では、世界は本質的に不条理だ。

 受験に失敗する。異性にフラれる。就職に失敗する。会社をクビになる。病気になる。人生に絶望は付き物で、その度に僕たちは誰かに八つ当たりをしたり、逆恨みをしたりする。時には、世の中全体に復讐しようと怨念をたぎらせる。

 誰しも過去を振り返れば、思い出したくない失敗があるのではないか。あるいは「許せない」と思う相手がいるのではないか。

 大人になる過程で降りかかる試練は、人生に汚点を残す。

 世の中を見渡すと、ルサンチマンが行動動機になっているように見える人が結構いる。特に政治運動に肩入れしている人からは、その傾向が顕著に読み取れる。

 受験や就職に失敗し、異性にも相手にされず、惨めな困窮生活を送る。そのこと自体は紛れもなく本人の責任だが、彼らはそうは考えない。彼らは声高に「社会が悪い」「政治が悪い」「在日外国人が悪い」「ユダヤの金融資本が悪い」と主張し、等身大の自分から目を反らす。

子供の頃、思い描いた人生を歩むことができる人は殆どいない。多くの人は、不本意な選択を迫られる。恨み節のひとつやふたつは誰にでもある。問題は、そのような人生にどう向き合うか、だ。

 例えば、年長者が「最近の若い奴は…」と苦言を呈する時、本心では若さに嫉妬している。僕自身、自分より年少で才能がある人を見ると、思わず「最近の若い奴は…」と口走りそうになる。

 自分より年下の人が、自分より頭がよく、才能に恵まれ、高く評価されていることは、当たり前のようにある。そんなときは、僕もつい「最近の若い奴は…」と苦言を呈したくなったり、「礼儀作法がなっとらん」みたいにケチをつけたくなる。

 過去の失敗や汚点を素直に認め、自分が抱いているルサンチマンを自覚して生きる。そして、他人の地位や名誉、若さや才能に嫉妬している自分を肯定する。

 これさえできれば、ルサンチマンのある人生は、思っているほど悪くない。

 山田宏哉記

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2012.10.18 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ