ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3213)

 愛は地球を救えない

 愛は地球を救う。どこか白けてしまう言葉だ。

 なぜか。大抵の人にとって、愛よりも欲や野心、憎悪の方が強いからだ。

 街を見渡せば、デモをしている人たちがいる。誰かを救うためにデモをする人は殆どいない。僕たちは大抵、誰かを非難するためにデモをする。

 よく「誰もが平和を願っているが、残念ながら戦争は起きてしまう」と言われる。なるほど、もっともらしい主張だ。但し、この認識は間違っている。

 本当のことを言うと、血の気の多い男は「暴力に満ちた世界」を望んでいる。もっと極端に言うと、戦場で合法的に人を殺したくてウズウズしている。

 また、歴史好きの男は大抵、三国志や戦国時代、幕末の動乱期など「暴力に満ちた時代」を好む。平安時代や江戸時代中期など「平和ボケした時代」が好きだという話は、殆ど聞かない。

 人類の歴史を見る限り、「憎悪は愛より強い」という認識は正しいと思う。歴史は、憎しみの連鎖に溢れている。

 更に、人が次々と殺されるフィクションは、「暴力に満ちた世界」を望む男の願望の裏返しでもある。賭けてもいいが、「平和ボケ」を非難する男たちは、本心では「暴力に満ちた世界」を望んでいる。

 おそらく、男性ホルモンのテストステロンは、「戦場で手柄を挙げる」ことを本能的に求めるのだ。

 だからこそ、社会の秩序を保つ上で「若い男が持つ暴力性をいかにマネジメントするか」は、死活的に重要な問題になる。

 「小人閑居して不善をなす」と言うように、10代の男女が時間とエネルギーを持て余したら、「良からぬこと」をするのは目に見えている。

 従って、現代日本では、受験勉強や就職活動といった社会的プレッシャーと、学校の部活動、格闘技のジム、武術の道場などの「暴力隔離装置」によって、若者の暴力性を抑えている。

 あまり自覚されていないが、学校の部活動(特に運動部)の本当の目的は「暴力的な若者を一般社会から隔離すること」だ。

 もっとも、暴力的な若者であっても、実社会で働くようになれば、暴力性は影を潜める。

 皮肉なことに、資本主義は「弱肉強食」と「暴力に満ちた世界」を求める男の欲と野心を紳士的に満たすことができる仕組みだからだ。

 成果によって仕事の評価と報酬が決まり、他者との優劣も決まる。成果を出せない者は淘汰されていく。この仕組みは、自然界の掟あるいは戦場のルールのアナロジーだ。

 一方で、人間愛に基づく社会主義や共産主義では「弱肉強食」と「暴力に満ちた世界」を求める男の欲と野心を満たすことができなかった。

 愛は地球を救えない。別にそれで構わないじゃないか。

 多くの場合、人を突き動かすのは、欲と野心、そして憎悪だ。「暴力に満ちた世界」でこの本音を見誤るのは、とても危険だと僕は思う。

 誰かを憎むのはたやすい。誰かを愛するのは難しい。悲しいかな、人は易きに流れる。

 誰かと憎しみ合うことは多く、誰かと愛し合えることなど滅多にない。もっとも、だからこそ僕らは、誰かと愛し合うことを人生の至福として味わっているのだ。

 山田宏哉記

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2012.10.24 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ