ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3220)

 "動物王国"としての実社会

 池谷裕二, 鈴木仁志(著)『和解する脳』(講談社)を読了した。

 脳に関する知見を元に、人間社会が分析されていて、非常に刺激的だった。

 特に印象的だったのが、「サル山の猿は序列争いをするが、餌が豊富にある森で暮らす猿は序列争いをしない」という趣旨の話だ。

 サルの世界でも、「有限性の認識」が争いを引き起こす。

 本書の指摘通り、人間が戦争をする根本的な理由のひとつは「地球が有限だと知ってしまったから」だろう。

 実際、戦争の原因となるのは「領土」と「資源」で、どちらも有限だ。それ故に、"愛国心"に火をつけやすい性質を持っている。

 「人間とその他の動物のあいだに、本質的な差はあまりない」と痛感する。

 私見では、「実社会は"動物王国"である」と考えた方が良いと思う。

 理屈よりも好き嫌いが横行し、声の大きな発言がまかり通り、最後は体力に勝るものが勝つ。まさに動物王国だ。

 「大学で勉強したことを生かした仕事をする」というのは、理科系はともかく、文科系では幻想に過ぎない。

 ここは動物王国なのだ。動物王国で評価されるのは、体力勝負で営業攻勢をかけられる人材であって、知識を振りかざしたり、理屈をこね回すような人材ではない。

 「頭がいい人」が陥りやすい罠のひとつに「身体の軽視」がある。

 肝心なときに、頭痛になったり、体調を壊してパフォーマンスを落とすようでは、動物王国で高い成果は出せない。

 「頭がいいだけ」で評価されるのは学校教育の世界だけで、動物王国ではむしろ「基礎体力」や「身体能力」の方が重要になる。

 動物王国で生き延びる秘訣は、まずは「基礎体力をつけること」と「病気にならないこと」だ。基礎体力のない個体や病気がちの個体は、真っ先に淘汰される。専門知識を身につける前に、まずは身体を鍛えた方がコストパフォーマンスがいい。

 従って、動物王国で生き延びるためには、一定の基礎体力に加えて、良質の食事と睡眠が欠かせない。ここで躓くと、過労死やメンタルヘルス不全という形で淘汰されてしまう。

 更に言うと、動物王国では、生きる目的は明確に定義されている。「富と地位を手に入れ、おいしいご飯を食べ、魅力的な異性と寝ること」だ。動物王国で生きる動物たちは今日も、この目的に向かって、弱肉強食の闘争を繰り広げている。

 動物王国では、草食動物は肉食獣の餌に過ぎない。草食系男子が軽蔑され、肉食系男子に女性が群がるのは、動物王国では当たり前のことだ。

 そもそも、「人間は理性で行動し、社会は公正さに満ちている」などと期待するから、失望が大きくなる。

 この際、「ここは動物王国だ」と割り切ってしまった方が良い。きっとその方が、世界がマシな場所に見えるはずだ。

 山田宏哉記

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2012.11.11 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ