ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3224)

 "ホームレス転落"という悪夢

 多くの日本人にとって、"ホームレスに転落する"というのは、悪夢に違いない。

 公園や駅に段ボールを敷いて寝泊りし、浮浪者向けの炊き出しの列に並ぶ。運が悪いと、不良少年たちがやってきて、暴行を加えられる。そのような生活を送るくらいなら、「死んだ方がマシだ」と感じる人も少なくないだろう。

 だからこそ、「会社をクビになったら、人生終わりだ」と考える。

 確かに、"ホームレスに転落する"ということは、"決定的敗北"には違いない。「社会のゴミ」呼ばわりされても、仕方がない。

 しかし、自ら生命を断つほどのことだろうか。あるいは、野垂れ死ぬことになるのだろうか。

 僕は、坂口恭平(著)『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)と飯島裕子, ビッグイシュー基金(著)『ルポ 若者ホームレス』(ちくま新書)を読んで、「そうではない」と思うようになった。

 『ルポ 若者ホームレス』によると、日本と欧米では「ホームレス」の定義が違う。日本では「野宿者や路上生活者」をホームレスと呼ぶが、欧米では「決まった住居を持たない人」をホームレスと呼ぶ。

 例えば、ネットカフェ難民は、日本の定義に照らせばホームレスではないが、欧米の定義に照らせばホームレスだ。僕は「決まった住居を持たない人」をホームレスと定義した方がいいと思う。

 日本では「ホームレスであることを隠している人」は結構いるようだ。そういう人は、例えば「夜はコンビニなどを徘徊して、昼間に図書館などで寝る」という生活を送っている。ホームレスにも「路上で寝ると、一線を超えてしまう」という感覚はあるようだ。

 また、ホームレスのあいだにも格差があって、ネットカフェ難民などは野宿者や路上生活者を見下したりするようだ。炊き出しなどがあっても、ホームレスとしてその列に並ぶのは、プライドが許さなかったりする。

 ネットカフェ難民は実質的にはホームレスだが、まだ「炊き出しの列に並ぶ」「路上で生活する」「ゴミ箱の残飯を漁る」といったラインは踏み越えていない。

 それが彼らの「プライドの高さ」につながるわけだが、あまり意味のあるこだわりには見えない。

 ところで、若年ホームレスには、人間関係あるいは対人折衝に難がある人が多いようだ。仕事も製造業派遣や警備員など、「人と接しない仕事」をやりたがる。その割に、路上生活者を見下したりと妙なプライドが高い。

 坂口氏の著書を読んでいると、ホームレスに転落した以上、早めにプライドを捨てた方が「良い生活」ができることがわかる。

 例えば、ホームレスであることをカミングアウトすれば、廃棄用の食材や換金可能なアルミ缶を譲って貰えることがあるようだ。一方、ホームレスであることを隠していると、延々と試食品コーナーを回る羽目になったりする。

 確かに、ホームレスに転落したからと言って、いきなりゴミ箱の残飯を漁るのはプライドが許さないかもしれない。

 しかし、炊き出しの列に並ぶくらいの「屈辱」は、受け入れた方がいいのではないだろうか。この程度の「屈辱」に耐えられずに、電車にダイヴするのは、とてももったいないと思う。

 おそらく、現代日本では「あぅあぅあぅ、僕は乞食です。食べ物をお恵みください」と開き直ることさえできれば、路上で野垂れ死ぬことはないだろう。

 誰しも、人生の歯車が狂えば、ホームレスに転落する可能性はある。そのために、なるべくリスクを避け、萎縮した人生を送るのか。

 だが、たとえ会社をクビになっても、敗北を受け入れ、自尊心さえ捨てれば生きていける。自死を選ぶ必要などない。それは僕たちにとって、ひとつの救いになり得ると思う。

 山田宏哉記

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2012.11.24 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ