ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3227)

 ビジネスに活かす優先的選択

 安田雪(著)『「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス』(光文社新書)を読んだ。本書の中に、押さえておきたい用語と考え方があった。それが、優先的選択だ。

 僕が中学高校の頃(1994-2000年)、まだ「携帯電話を持たない」という選択が許されていた。しかし、大学生になる頃には、「携帯電話を持たない」という選択は実質的に不可能になっていた。携帯電話なしには、知人や友人と連絡取るのが難しくなっていた。

 僕は、最初の携帯電話のキャリアをNTTドコモにした。

 携帯電話の機種やキャリアを選択する際、決め手となるポイントは何だろうか。通信速度やサービス内容、機種の性能やデザインは、もちろん重要だ。

 しかし、それ以上に重要なのは「ユーザーの数」であり、「他の人が使っているかどうか」ではないだろうか。

 僕が最初の携帯のキャリアをNTTドコモにした際、特にサービス内容を詳しく比較検討したわけではない。周囲はNTTドコモにする人が多かったし、少なくともウィルコムのPHSよりは、無難な選択に思えた。

 いくらスペックが優れたキャリアや機種であっても、他に使っている人がいないと、「何となく不安」ではないだろうか。

 例えば、iPhoneは世界中で使っている人がいるので、一定の安心感がある。実際、不具合があっても、すぐにアップデートされるだろう。

 一方、日本の家電メーカーが出すガラパゴス端末は、ユーザー数そのものが少ない。いつ販売やサービスが中止されてもおかしくない状況だ。これでは、いくら性能やデザインが良くても、契約や購入には二の足を踏んでしまう。

 別の例を挙げよう。大ヒットする映画や音楽、書籍等は必ずしもコンテンツとして優れたものではない。

 普通の人にとって大切なのは「みんなが消費している映画、音楽、書籍をフォローし、話題についていくこと」であり、内容の良し悪しそのものは、最優先の判断基準ではないのだ。

 TV番組はコンテンツとしてはくだらないが、「話題性」は高い。学校の教室で、同級生と話題にするなら、やはり昨夜のTV番組が無難だ。

 「あの芸人、くだらないよね」と言い合って、相手と共感できるなら、TV番組は立派に役立っている。

 このように「他の人が選択しているから」といった理由で選択がなされることを、ネットワークの用語で「優先的選択」と呼ぶ。

 日常生活でも「モテる人が益々モテる」「仕事ができる人に仕事が集中する」「お金持ちに益々お金が集まる」などの優先的選択の事例がたくさんある。

 人は、必ずしも中身の良し悪しで物事を判断しているわけではない。

 ビジネスの世界で生きるなら、そのことに理不尽さを感じるより、むしろそれをしたたかに利用することを考えた方が生産的だろう。

 山田宏哉記

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2012.11.27 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ