ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3230)

 顧客は会議にカネを払うのか

 鈴木清幸(著)『スマホは「声」で動かせ 』(ダイヤモンド社)を読了した。

 非常に興味深く、音声認識技術の概要を理解できた。音声認識技術が特に威力を発揮するのは、医療やコールセンター、運転中など「手が離せない分野」になる。

 数々の導入実績が紹介されており、将来性の高い分野だとわかった。

 ところで一件、本書では驚くべき導入事例が紹介されていた。

 それは「従来、2時間の会議の議事録作成に10時間かかっていたが、音声認識技術により作業時間を40%削減できた」というものだ。

 本書は当然、「作業時間を40%削減」の部分を実績として強調している。しかし僕は「2時間の会議の議事録作成に10時間かかっていた」という部分に唖然としてしまった。

 これで、大丈夫なのだろうか。

 議事録作成に10時間かかるのであれば、事前の会議の準備には更に時間をかけているのだろう。

 この人は一体いつ、仕事をするのだろうか。実社会で働いていると、内情はおおよそ想像がつく。

 おそらく、この会社では会議が最も重要なイベントであり、セレモニーなのだと思う。

 一概に「それが悪い」と言う気はないが、本来は顧客への貢献に振り向けるべきエネルギーが、社内政治に向かっているように見えてならない。

 そうでなくても、やたらと会議が好きな人はいる。

 一点、質問したいのは「顧客はその会議にカネを払うのか」という点だ。

 結局のところ、「2時間の会議と10時間の議事録作成」にかかる費用は、その企業の商品価格に転嫁される。

 会議は生産的な場になることもあるが、一方、何の発言もしなくても、許されてしまう。

 眠気を我慢して、話を聴いているだけで、いつの間にか時間が経過し、気付けば終業時間を迎えている。そして、「今日も忙しかった」という自己満足に浸る。しかし、冷静に見ると、何も成果がない。

 極端な話、社内ニートを掻き集めて毎週8時間の定例会議を開けば、社内ニートはいなくなる。会議日以外には、会議の準備と議事録作成の仕事がある。

 社内ニート会議の議題は「僕たちは何をするべきか」。結論は「会議をするべき」。これで決まりだ。

 「何を今更」の話だが、照準を合わせるべきは顧客への貢献であり、リソースを割くべきは、商品やサービスの企画と開発だ。

 「会議のための会議」など、無駄以外の何物でもない。顧客は会議に対してカネを払っているわけではないのだ。

 山田宏哉記

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2012.12.8 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ