ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3235)

 汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円 

 「汗して稼いだ一万円は尊く、投資で稼いだ一万円はあぶく銭だ」という価値観がある。言わんとすることは、理解できる。

 僕は学生の頃、日雇い労働の倉庫内作業を時給¥850でやっていた。拘束時間は9-17時で、実働7時間。日給換算で¥5,950。交通費は自腹で、平均¥1,000くらい。1日の稼ぎは約¥5,000で、1万円を稼ぐためには、2日働く必要があった。

 また、学生の頃にしていた掃除屋のアルバイトは、時給¥1,100で1日あたり実働3時間。1万円を稼ぐためには、3日働く必要があった。

 一方、株式投資をしていると、それこそ、株価を見ながら5分10分クリックするだけで、1万円くらい稼げてしまう。

 かつて、日雇い労働で2日働き、掃除屋で3日働いて手にしていた1万円を、こんな方法で稼いでいいのか。

 ただ、多くの人が見落としていることがある。

 日雇い労働や掃除屋として働く際は、「労働を提供すれば、対価を得られる」という確証がある。1万円を手にできることが、予め約束されている。

 一方、投資の方は1万円を稼げる保証はない。それどころか、投資に失敗して大損をする危険すらある。

 一般に広がるイメージとはむしろ逆だが、お金は「汗で稼ぐ」方がはるかに容易でストレスが少ない。

 投資には「元本を失うリスク」があり、大抵の人は、自分の財産が毀損することに耐えられない。だから、「汗で稼ぐ」という安全な道を歩む。

 日本では「汗水垂らして働く」ことが美化される。

 ただ、自分の経験に照らすと、汗水垂らして働くのは、何も考える必要がなく、対人折衝もないので、意外と楽だ。外食の世界では「皿洗いに逃げる」という趣旨のことが言われるが、要はそういうことだ。

 よく「汗水垂らして働く立派な労働者」を賞賛し、「マネーゲームに興じる投資家」を貶す人がいる。必ずしも間違いではないと思うが、これはあくまで物事の一面だと思う。

 時には、投資のリスクが人を鍛え、「賃金が保証されている」という環境が人を堕落させるのだ。

 山田宏哉記

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2012.12.19 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ