ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3244)

 いかに「読むべき本」を確保するか   

 電子書籍の最大のメリットは「読書の時間を確保できた際、読むべき本を読むことができる」という点だと思う。

 紙の本で同じことをやるためには、大量の本を持ち歩く必要がある(実際、僕は大量の本を持ち歩いていた)。

 かつて、本には「暇つぶし」の機能があった。例えば、新幹線に乗る前、駅の売店で適当な文庫本の推理小説を買う。そして、新幹線の中で、退屈しのぎにその本を読む。大抵、それは「絶対に読むべき本」ではないし、読む側もそんな期待をしていない。

 よく考えると、これは「時間とお金の無駄遣い」だ。他に読むべき本がいくらでもある中で、なぜ、そんないい加減な読書をするのか。

 読書できる時間を確保できても、手元に読むべき本がなければ仕方がない。新幹線の中などはその典型例だ。紙の本を大量に持ち歩くのは大変だし、駅の売店で売っているのは、読む価値の低い書籍が中心だ。

 電子書籍の端末を持ち歩いていれば、移動中や旅行中でも「手元に読むべき本がない」という事態を避けられる。購入済の書籍を読むこともできるし、新しい本を買うこともできる。質量共に駅の売店とは比較にならない。

 「駅の売店」に当てはまることは、多くの場合、リアル書店にも当てはまる。僕の場合、ジュンク堂、紀伊國屋、丸善などの一部書店を除くと、リアル書店で「読みたい」「読むべきだ」と感じる本に出会うことは少ない。

 リアル書店のベストセラーと言えば、ダイエット本や血液型占い、カルト教団の教祖の能書きが定番になっている。Amazonが普及した今、まっとうな読書家であるほど、リアル書店からは足が遠のくのではないだろうか。

 例えば、待ち合わせの予定時刻まで、あと2時間。喫茶店で読書するために、読む本の確保が必要になったとする。そういう場合、電子書籍を活用する人とリアル書店を利用する人では、どのような格差が生まれるか。

 電子書籍端末を持つ人は、喫茶店で紅茶を飲みがなら、職場でも話題になっているビジネス書を購入。すぐに読み始め、仕事に活かせる重要な知見を得る。

 一方、リアル書店で本を探す人は「最近は、くだらない本しか出ていないのだなぁ」と愚痴を垂れながら、それでも退屈しのぎの本を購入。しかし、あまりのつまらなさに「時間とカネを返せ」と後悔する。

 もっとも、電子書籍で合理的に読書を進めると、偶然、目にした情報から重要な気付きを得る機会が減少する可能性はある。ブックカフェのような「お気に入りのリアル書店」を見つけて、背表紙を眺めて回るような機会は、意識的に持った方がいいだろう。

 それでも、読むべき本はウェブで検索から発注し、端末も電子書籍を活用した方がパフォーマンスが高まると僕は思う。

 実のところ、僕の読書生活は、実はAmazonとブックオフ、そして図書館があれば、殆ど完結してしまう。

 読書にとって大切なのは、「読書の時間を確保できた際、読むべき本を読むことができる」という環境だ。残念ながら、リアル書店と紙の書籍では、この当たり前のことが実現困難なのだ。

 山田宏哉記

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