ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3250)

 "試練の場"としての株式投資   

 今更、私が言うことでもないが、社会人になって最初の数年は、株式投資などで欲を出さず、余暇も本業関連の勉強をする方が良いと思う。

 なぜなら、株式投資でうまく行くと、実業をバカらしく感じてしまう危険があるからだ。

 実業でお金を稼ぐためには、非常に手間がかかる。営業活動をして、受注を獲得し、商品やサービスを提供し、請求書を発行し、入金を確認する。多くの関係者が手間をかけて、ようやく売上げを得ることができる。

 実業の世界では「汗水流して働く」ことが尊いとされ、上司や取引先の顔を立て、職場の宴会や運動会の折には、喜び勇んで馳せ参じるのが基本的なマナーだ。僕自身、そういう価値観をある程度は理解しているつもりだ。

 この点、株式投資だと、一人で液晶画面に向かって「買う」と「売る」を繰り返すだけで、お金を稼げてしまう。更に対人折衝も不要で、良くも悪くも「手離れ」が良い。

 実業の世界で苦労して手にした収入が、売買を繰り返すだけの株式投資の収益に及ばないとしたら、勤労意欲が毀損されてしまうかもしれない。

 新人が株式投資に入れ込むのは、子供が成人向けの映画を観るようなもので、職業人としての教育上、あまり良くはないと思う。

 「但し」と僕は思う。

 仕事に慣れてきた社会人は、業務プロセスの改善などで「残業時間の圧縮」に取り組み、浮かせた時間で株式投資のための情報の収集や分析をしても良いと思う。

 実力次第で残業代より大きく稼げるし、株式投資のための情報収集は本業でも役立つ。更に収入源を複数持つことにより、精神的にも良い影響がある。

 また、介護やアニメ制作など「好きなことを本業にしているが、給料が安い。これでは生活できない」というタイプの人も、「株式投資で生活費を稼ぐ」という選択肢を検討しても良いのではないか、と考えている。

 給料の低い会社だと、残業代なしでは、日々の生活が苦しくなるケースがある。

 こういう労働環境では、残業代目当ての「無意味な居残り」が横行する可能性が高い。私見では、これは日本のホワイトカラーの生産性の低さにもつながっている。

 株式投資は勝敗がハッキリつき、なおかつ、それが収入に直結する。その意味では、株式投資のルールは、いわば純粋な成果主義と言える。

 現実のビジネスでは、どうしても、上司へのごますりや酒席での一発芸といった不純物が、評価や報酬に混じってしまう。

 更に言えば、仕事で成功しようと、失敗しても、毎月、決まった金額の給料が支払われる。良く言えば「恵まれた環境」だし、悪く言えば「ぬるま湯の環境」だ。

 自分自身の判断と責任で自分の資産を運用し、損益に責任を持つ。リスクをとらなければ、リターンはない。株式投資では、経営者やマネジャーが置かれる立場を、若い頃から擬似的に体験することもできる。

 株式投資のルールは、純粋な成果主義であり、いわば"試練の場"として捉えることもできる。うまく活用すれば、中堅のビジネスパーソンの実力を伸ばす装置として、機能すると思う。

 山田宏哉記

【関連記事】
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
あの人が嫌われる理由 (2012.6.4)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)



2013.1.14 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ