ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3251)

 シャープ株の売買で気付いたこと   

 今週、経営再建中のシャープの株を買って、売却した。

 1000株を\335で買って、\348で売り抜けた。手数料を含めると、\5,676で利益が確定した。

 たったこれだけの出来事だが、僕は多くのことを学んだ。ハッキリ言うと、利益が出たのは紙一重の偶然だった。

 僕がシャープの株を買う気になったのは、先週末、「シャープが円高で黒字化の見込み」「銀行がシャープに継続的に融資」との報道に接したからだった。

 念のために、シャープの商品と財務状況を改めて調べた。現在のところ、省エネ性能の高い液晶パネルIGZOを量産できるのは、世界でもシャープだけだ。

 株価は、急上昇してストップ高になっている。日経平均も翌週は上がる見込みだった。僕は「ほぼ確実に勝てる勝負だ」と考えた。

 そしたら、今週初頭に異変が起きた。

 日経新聞が、予め仕込んでいたかのように「iPhone5の販売不振の影響で、シャープが液晶パネルを減産している」という趣旨の報道をしたのだ。

 プラスの材料は「黒字化」と「融資継続」、マイナスの材料は「液晶パネルの減産」。会社の正式発表はなし。どちらの材料を重視するべきか、正直、僕は迷った。

 今思えば、この時点で、シャープ株の購入は中止するべきだった。

 しかし、それでは週末、シャープについて調べた労力と時間が無駄になってしまう。この後、ストップ高を連発すれば、大きな機会損失にもなる。

 僕は、株価が上がる方に賭け、イチかバチかで、シャープ株を買うことにした。

 購入した日のうちに、株価は\315まで下がった。\335で買ったので、いきなり\20,000の含み損だ。

 翌日、日経平均が急落し、シャープ株は一時、\309までさがった。連日の急伸のはずが、完全な判断ミスだった。

 翌々日、またもや異変が起きた。日経新聞が、予め仕込んでいたかのように「シャープがレノボと提携」との報道をしたのだ。

 これが、シャープの株価が反発する決定打になった。このタイミングで、この報道がなければ、僕は負けていた。

 株価が損益分岐点を超えた時点で、僕は安全を優先して、早めに利益確定をした。

 利益確定後、今度はロイターが、予め仕込んでいたかのように「第4世代iPad販売伸び悩み、シャープがパネル生産ほぼ停止」という報道をした。

 シャープの株価は、想像以上に実体価値から離れていて、マスコミを巻き込んだ投機戦になっていた。正直、危なくて仕方がなかった。

 黒字化報道も、減産報道も、レノボとの提携話も、会社が正式に発表したものは何もなかった。わかったのは、インサイダー情報をマスコミに掴ませて、株価を操作しようとしている連中がいることだ。

 有名企業の株価は、マスメディアの報道で左右される。これと比べると、非有名企業の場合、事業内容と財務情報がダイレクトに株価に反映される。

 有名企業の株を売買して、短期で売却益を得るためには、企業の実体価値から離れた「情報戦」や「心理戦」に勝つことが必要になってくる。

 今回の件の心理的な負荷を考えると、利益が\5,676では、とても割に合わない。反省するべき点も色々ある。

 それでも、とてもいい経験になったと思う。

 世の中の仕組みやお金の流れを体感として理解できた。また、欲望と不安をコントロールして意志決定をする訓練にもなった。

 これはたぶん、読書をしたり、企業の担当レベルで働くだけでは、掴むことができない感覚だと僕は思っている。

 山田宏哉記

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2013.1.17 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ