ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3254)

 勤労の国の幸福なサラリーマンたち   

 この国では、額に汗をして働くことが尊いとされる。

 更に言うと、多くの国民は、有名企業で正社員という立場で働くことに価値をおき、「働いて稼いだ一万円は、株で稼いだ一万円より価値がある」と考えている。

 この国では、労働が美徳であると同時に、義務でもある。働いていない者への視線は冷たく、生活保護の受給者などは常に「働け」という圧力にさらされる。

 このような風潮の是非を言うつもりはないが、経済的に不合理な面があることには留意しておきたい。

 国民の多くは、勤労所得が唯一の収入源だ。つまり、ひとつの企業と雇用契約を結び、労働力を提供することによって、生活の糧を得ている。

 取引先が一社しかない企業は、経営リスクが高い。取引先が経営破綻すれば、すぐに連鎖倒産の危機に陥る。勤労所得が唯一の収入源のサラリーマンは、「取引先が一社しかない企業」と同じ立場に置かれている。

 サラリーマンは、雇用契約先の企業が経営破綻すれば、収入源が経たれ、否応なしに失業する立場にある。ハローワークで再就職先を探しても、労働条件が悪い求人案件が中心であり、運良く再就職できても、年収も下落するのが普通だ。

 そもそも、勤労所得は、どのように決まるか。

 給料は、生活費から逆算して決まる傾向が強い。当然といえば当然だ。

 多くの人は「生活の糧を得るため」に働いているので、需要(採用側)と供給(就職側)の取引成立価格(=月給)は、生活費とほぼ同額になる。

 会社が倒産したり、人員削減で失業した時のため、「雇用される能力」を磨くことが重要と言われる。年収アップのために、資格等を取得し、スキルアップをはかる人も多い。

 時には、そういう努力も大切だろうが、そもそもなぜ、お金を稼ぐことに「雇用」というクッションを通すのだろうか。

 純粋に経済合理的に考えれば、大切なのは「雇用される能力」ではなく、「お金を稼ぐ能力」ではないだろうか。

 私見では、「特定の事業領域の企業に雇用されて、特定のポジションについていないと使えない資格」を取得するために勉強するのは、効率が悪すぎると思う。

 失業状態の時、雇用契約抜きでお金を稼げないなら、リスクヘッジにもなっていない。

 反面、「株で稼ぐスキル」等は、色彩検定や簿記三級などより、遥かに役立つし、実利にも結びつく。更に「株で稼ぐスキル」は企業に雇用されていなくても、使うことができる。

 私見では、勤労所得を唯一の収入源にする限り、生計を立てるのが精一杯で、おそらくお金持ちにはなれない。

 死ぬほど働いてサラリーマン社長になっても、収入面で報われるとは言いがたい。新入社員の初任給の10倍程度だったりする。

 その姿は、回しグルマの中で走るハムスターのようだ。

 それでも、生計を立てるのに精一杯の収入しか得られなくても、サラリーマンが納得するのは、日本では雇用契約が「社会的信用」を保障するからだろう。

 更に、隣のハムスターも回しグルマを回していて、より速く回せる方が出世するので、根本的な構造には目が届かない。

 「本人が幸せなら、それでいいじゃないか」と言えば、全くその通りだ。

 僕たちは少なからず、「人は必ず死ぬ」という構造から眼をそらすために、自ら望んで回しグルマを回している。

 事実、何の疑問もなく、企業に雇われて働くサラリーマンたちがいるからこそ、日本経済は成り立っているのだ。

 山田宏哉記

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2013.1.27 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ