ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3260)

 株で勝つのが難しい理由     

 ここ最近、株価が急上昇し、株式投資が注目を集めている。ただ、「株を買えば、簡単に儲かる」みたいな風潮が広がることは、問題だと思う。

 確かに、僕自身、昨年末から現在に至るまでの間に、本業と比較しても遜色ない程度の利益を出すことができた。

 だが本来、株式投資で継続的に利益を出すのは難しい。あまり他人に勧められるものでないのは確かだ。

 率直に言って、平均的な日本人は、株式投資をするための知識量と情報収集能力を兼ね備えていない。

 日本にはどのような企業が存在し、どのようなビジネスをしていて、どの程度の利益を出しているか。

 この程度は「誰でも知っている」ことを前提に株式市場は動いているし、誰もが財務諸表を理解できることを前提としている。

 もちろん、実態は違う。

 平均的なビジネスパーソンは、自分のいる業界以外では、就職人気ランキングに顔を出す企業くらいしか知らなかったりする。財務諸表が読めるかどうかも、結構あやしい。

 知らなければ当然、それだけで不利な戦いを強いられる。

 また、売買によるキャピタルゲイン(値上がり益)を狙う場合、「銘柄選び」と「売買のタイミング」が決定的に重要になる。

 まず、多くの人が「継続的に成長する企業を選び出す」という最初のハードルをクリアできない。単純に知識不足・情報不足で業界の常識や会社名を知らないこともあるし、「企業名は知っていても、優良企業だと見抜けない」こともある。

 「何だかあの会社の株価が上がりそうだ。だって、社長がよくテレビに出るから」みたいな根拠だけで株の売買をするのは、自殺行為に等しい。

 「有名企業だから安心」というのは、幻想に過ぎない。

 旧JALは有名だったが、上場廃止になり、株式は紙屑になった。

 また、いくら優良な銘柄であっても、割安で買えなければ大きな収益をあげることは難しい。株式の売買は、常に動く標的に弓を射るようなもので、判断のための時間は極めて限られている。

 もちろん、デイトレーダーでなければ、常に株価を監視する必要はない。それでも、終値をチェックして「安い(高い)」と判断したら、翌朝に買い(売り)注文を出すくらいのスピード感は必要だと思う。

 私の経験則では「売買のチャンス」の期間は、そう長くは続かない。本当に割安なら株価は上がっていくし、逆に割高なら株価は下がっていくからだ。

 知識情報や技術の部分だけでなく、人間の心理状態への見識が欠けていたり、自分の欲望をコントロールできない人には、株式投資はオススメできない。

 バカみたいな話だが、短期的な株価は案外、天候で左右される。人間は本能的に、晴れの日には強気になり、雨の日には弱気になる。

 株式投資をするなら、意識的にこういうバイアスを補正することが大切だ。

 実際、日経平均の騰落と天候の良し悪しには、有意の相関がある。自分の心理状態を客観的に観察できない人は、「高気圧(晴れ)の日に株を買って、低気圧(雨)の日に売る」といった基本的なミスをしてしまう。

 「敗者のゲーム」という用語がある。

 「成功した方が勝ち」という形で勝負が決するのではなく、「失敗した方が負け」という形で勝負が決するゲームだ。初心者同士のテニスや卓球を想像するとわかりやすい。

 株式投資にも、「敗者のゲーム」という側面がある。

 勝てる保障はどこにもない。しかし、「負ける要素を減らす」ことで勝率を高めることはできる。

 つもり、一見、ギャンブルのように見えても、株式投資で利益を出すためには、意外にも、地道で継続的な学習が必要なのだ。

 そしてこれこそ、株で勝つのが難しい根本的な理由だと僕は考えている。

 山田宏哉記

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