ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3271)

 "潜在的犯罪者"の処罰は許されるのか       

 将来、犯罪者になる可能性が高い人物を、犯行前に処罰することは許されるのか。

 最近、「浮浪者が住宅街を歩く」という"犯罪行為"があったと記憶している。

 「浮浪者は"潜在的犯罪者"なのだから、犯行前に処罰しても良い」という考え方は、一定の支持を集めている。

 人間は、本能的には「潜在的犯罪者の処罰」を望んでいるのだと思う。

 浮浪者や不審者が自宅の近所をうろついていたら、本音では「(彼らは"潜在的犯罪者"なのだから)逮捕して、刑務所に入れて欲しい」と感じる人は少ないないはずだ。

 時にこの感情は魔女裁判や特高警察の形になって暴走する。

 単純に人命を数量でカウントすれば、殺人事件を起こして犯人が処刑されるのと、殺人事件を起こす前に潜在犯が処刑されるのでは、後者の方が社会にとっての損失は少ないと考えられる。

 日本では「人間に害を及ぼす動物を殺害すること」を法律で認めている。

 連続殺人を企てるような危険人物は、いわば"動物同然"なので、犯行前に動物愛護センターに収容し、捨てられた犬や猫と一緒に殺しても良いのではないだろうか。

 例えば、オウム真理教の教祖と幹部を地下鉄サリン事件が起きる前に処刑しておけば、一般人の犠牲者を出さずに済んだはずだ。

 国家権力は、"人を殺す権利"を持っている。その証拠に、日本でも法務大臣がハンコを押せば、死刑囚は絞首台で処刑される。

 現行の法体系では、「"潜在的犯罪者"の処罰」は認められないが、然るべき手続きを踏んで法律を改正すれば、おそらく許容されるようになると思う。

 歴史を振り返っても、治安維持法のもとで、特高警察が手当たり次第に"思想犯"を捕まえて、暴行や拷問を加えていたのは、それほど昔のことではない。

 現実には「こういう人が犯罪者になりやすい」という統計的な傾向は、あると思う。特に、性別や国籍、家庭環境、職業や収入などで「犯罪率」は違ってくると思う。

 警察の職務質問などは、明らかに「犯罪率」の高いカテゴリーに属する人を狙っている。

 「浮浪者は"潜在的犯罪者"として処罰しても良い」と考えている人も、"潜在的犯罪者"の枠がニート、フリーター、年収300万円以下、40代以上独身男性などと拡大してきたら、さすがにその危なさに気付くだろう。しかし、気付いた時にはもう遅い。

 そもそも、「こういう人は犯罪者になりやすい」といった統計的傾向で、ある種のカテゴリーの人を差別したり、排斥したりするのは、人間として、根本的に間違っていると僕は思う。

 批判的なニュアンスで「警察は事件が起きてからでないと動かない」と言う人がいるが、それは当然だ。警察が事件が起きる前に"潜在犯"を処罰し始めたら、それこそ大変なことになる。

 カルト教団の信者であれ、犯罪者の子弟であれ、スラム街を徘徊する浮浪者であれ、法の下には平等だ。排除するべき"潜在的犯罪者"などではなく、僕たちが共存するべき隣人だ。

 統計的な傾向はあくまで傾向に過ぎず、本人の意志や行動は全くの別物だ。少なくとも僕は、個人の信念として、"潜在的犯罪者"の処罰を許さない。

 山田宏哉記

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