ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3279)

 肝心なときに逃げる人      

 「肝心な時に逃げる」というのは、癖になりやすい。今週、そのことを痛切に感じた。

 例えば、繁忙期や緊急事態が発生した時に、「たまたま体調不良」になる人がいる。もちろん、これは偶然ではない。

 本人は要領良く振舞っているつもりなのだろう。現実には、割とこういうタイプの人が高く評価されたりする。

 日本企業は、「協調性」や「コミュニケーション能力」を評価する傾向にある。そのため、肝心な時に逃げない人より、嵐の後に戻ってきて「みんなの成果」であることを強調する人の方が、評価されることもある。

 時々、発明の対価などを巡って、従業員が企業に対して訴訟を起こしたりする。1億円の利益に貢献したのに、発明者への対価は奨励賞の10万円だけで、いつの間にか「みんなの成果」になってしまうようでは、訴えたくなる気持ちも理解はできる。

 個人的には、僕の成果が「みんなの成果」になったり、手柄を他人に譲っても特に何とも思わない。

 ただ、「逃げる人」が「逃げない人」より高く評価されるのは、仕組みとしてフェアではないと思う。

 人が人を評価する以上、自分の手を汚さず、要領よく立ち振る舞っているだけの人を高く評価してしまうことは、ある程度は仕方ない。人に対する評価は基本的に「好き嫌い」でしかない。

 組織での労働に比べると、市場や投資はフェアな世界だ。個人の知識や技量と金銭的な損益が直結している。

 先日、新興市場で投売りが連鎖し、ひどい暴落が起きた。翌朝には人身事故が多発した(個人的には無関係ではないと思う)。

 この時、狼狽売りをした人々は「肝心な時に逃げる人」だと思う。結果的にそういう人は大損をした。借金して株をやっていた人は、電車に飛び込むことになったかもしれない。

 僕は暴落時に買いを入れまくったので、結果的に軽傷で済んだ。「ここで新興市場が潰れたら、日本に未来はない」という義務感もあった。

 常にそうなるとは限らないが、今回の新興市場暴落では「逃げる人」には鉄槌が振り落とされ、「逃げない人」が生き残った。破産や大損をした人には気の毒だが、それが敵前逃亡の代償だ。

 僕はこの結果に、とても満足している。僕にとって株式投資が魅力的なのは、実ビジネスではあり得ないほど、フェアなルールが適応されているからだ。

 実ビジネスの世界では、まだまだ「肝心なときに逃げる人」の方が得であることが多い。但し、そのような風潮が転換した兆しはある。

 例えば、人材育成の文脈では"修羅場体験"が重視されるようになってきた。"修羅場体験"により、「逃げる人」は振り落とされ、「逃げない人」が頭角をあらわす。

 徐々にではあるが、実ビジネスにおいても、フェアな仕組みが整いつつある。このような流れは、今後も続いて欲しいと僕は思っている。

 山田宏哉記

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