ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3285)

 モジュール化する仕事と人材 

 世の中には、人材の入れ替えが容易な仕事がたくさんある。

 極端な例だが、日雇い派遣などは、「頭数」さえ揃えれば良い。コンビニや飲食店の店員や工場の作業員、タクシードライバーやトラックの運転手も、特定の誰かが、毎日継続して働く必要はない。

 ビジネスの世界では、入れ替え可能な部品のことを「モジュール」と呼んだりする。モジュールの特徴は、他の部分との相互作用が少ないため、容易に追加したり、削除したりできることだ。

 賃金制度に注目すると、月給より日給、日給より時給の仕事の方が、よりモジュール化(=入れ替え容易な部品化)されている。時給制アルバイトをするのは、大抵、特定の誰かである必要はない。

 掃除屋や飲食店店員、工場の作業員やトラック運転手などの仕事が、モジュール化(入れ替えが容易な部品化)するのは、なぜか。

 その決定的な理由は「職務と工数が明確だから」だと思う。

 掃除屋や飲食店の店員などは、作業内容が予め決まっていて、所要時間もわかる。だから、雇用する側は一定の時給で求人を出せば、必要な人材を集めることができる。

 不満を持った従業員がいるなら、辞めてもらえばいい。他に代わりはいくらでもいる。

 モジュール化された領域で働いていると、スキルを習得しても収入には結びつかない。

 掃除屋が清掃スキルを磨くと、お金持ちになれるか。タクシードライバーやトラック運転手が運転スキルを磨くと、お金持ちになれるか。

 答えは、ノーだ。自分がお金を払う側になったと考えれば、よくわかる。

 例えば、お金を払って、庭の草取りを依頼するとする。

 仮に相場が¥5,000だとしよう。「超絶 草むしりテクニック」を持った人に相場の2倍の¥10,000を払って依頼する価値はあるだろうか。

 全くない。むしろ所要時間が減る分、相場より低い金額でお願いしたくなるだろう。

 お金を払う側からすれば、作業者が「一瞬で雑草を抜くスキル」を持っていようが、関係ない。

 依頼側は、作業後に雑草がなくなっていることに対してお金を払うのであって、「一瞬で雑草を抜くスキル」に対してお金を払うのではないからだ。

 同様のことは、モジュール化された仕事領域全般に当てはまる。

 モジュール化された領域では、スキルと収入はあまり関係ない。収入を増やすためには、スキルより、ポジショニングの方が重要になる。

 では仮に、清掃会社で働く人が、時給を増やそうと思ったら、どうするのが得策か。

 「清掃スキルを磨く」のは、殆ど無力だ。一方で、休日や深夜のようなシフトに入るか、特殊清掃を扱う会社に転職すれば、需要と供給の関係で、時給アップが望める。。

 大企業ともなれば、普段、何をやっているのかよくわからない人が、結構いる。そういう人は、ネットサーフィンや雑談をしているだけでも、掃除屋やファミレスの店員より遥かに高い給料を稼いでいる。

 何をしているのか不明だと、会社としても、迂闊に解雇にはできない。

 私見では、成果がイマイチな人ほど、モジュール化された作業に熱中する。確かに、何をやっているのか明確なので、周囲から文句は言われにくい。

 ただ、モジュール化された作業を続けても、能力の研鑽にはあまり繋がらない。中長期的には損な選択だ。

 あまり言われないことだが、職務は不明瞭な方が良いし、仕事にかかる手間暇も、他人からは見えにくい方が良い。

 時々、ビジネスパーソンの中にも「私の職務を明確にしてほしい」などと言う人がいるが、当人はそれが自殺行為だと気付いていない。

 職務と作業内容が明確になれば、その仕事はモジュール化(入れ替え容易な部品化)され、当人は人員削減の対象になる。

 「明確な職務」の行き着く先は、時給制のアルバイトであり、結局は「使い捨ての人材」に行き着くのだと思う。

 山田宏哉記

【関連記事】
勤勉という美徳の終わり(2013.6.30)
仕事がなくて暇な会社員(2013.6.30)
勉強で得られる知識は、価値が低い(2013.6.22)
仕事が好きな人、嫌いな人(2013.6.1)
仕事に"専門的な知識と能力"は必要か(2013.4.27)
ビジネスでは、あまり努力しない方が良い理由(2013.4.20)
誰が「腐った人材」を養うのか(2013.4.13)
「パンを分け合う仲間」としての会社(2013.3.30)
なぜ、あの人は「本を読むバカ」なのか(2013.3.26)
「やればできる」の仕事論(2013.3.23)
なぜ、ユニクロの離職率は高いのか(2013.3.16)
若者よ、貯金は止めた方が良い(2013.3.12)
英語公用語化の真意(2013.3.9)
薄給の時代 、副業の損得勘定(2013.3.2)
株で勝つのが難しい理由 (2013.3.2)
残業を良しとする"村の論理" (2013.2.24)
お金を稼ぐ力、組織を泳ぐ力(2013.2.16)
「みんな」という名の不審人物(2013.2.9)
リスクヘッジとしての株式投資(2013.2.2)
勤労の国の幸福なサラリーマンたち (2013.1.27)
公務員の"駆け込み退職"騒動の本質(2013.1.26)
株式投資の「究極の目標」とは何か(2013.1.23)
シャープ株の売買で気付いたこと(2013.1.17)
"試練の場"としての株式投資(2013.1.14)
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
あの人が嫌われる理由 (2012.6.4)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)



2013.7.13 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ