ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3294)

 勤労の美徳と資本主義の強欲 

 多少の教養がある日本人は「キリスト教のプロテスタントの倫理が、資本主義の精神につながった」と理解している。

 マックス・ウェーバーの有名な著作に『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(通称:『プロ倫』)という本がある。

 言葉の定義の問題となるが、それでは「資本主義の精神」とは何か。『プロ倫』の読者は、「"一生懸命働いて、お金を稼ぐことは、正しい"という価値観」と答えるかもしれない。

 僕は「違う」と思う。プロテスタンティズムの倫理が生み出したのは、"勤労の美徳"であって、資本主義の精神ではないと思う。

 「一生懸命働いて、お金を稼ぐことは、正しい」という価値観は、"勤労の美徳"であって、生活実感に根付いている。

 "勤労の美徳"は、さほど珍しいものではない。

 日本人の大半は、キリスト教のプロテスタントではないが、「汗水垂らして働く」ことを美徳としている。そして、投資や金融でお金を稼ぐことを「マネーゲーム」と呼んで軽蔑する。

 古代エジプトや古代ギリシアの奴隷たちであっても、おそらく"勤労の美徳"に近いものを持っていたと思う。

 そもそも、資本主義の成立を云々する以前の問題として、勤労を肯定しなければ、人類は食糧を得られない。狩りや農業で食糧を生産するのも、勤労に他ならない。

 私見では、資本主義が肯定したのは、"勤労の美徳"ではない。"人間の強欲"である。

 資本主義の精神とは、投資や金融による収益(利子や配当などによるインカムゲインと売却によるキャピタルゲイン)を肯定する価値観である。投機やマネーゲームをも肯定する点にこそ、資本主義の革新性がある。

 資本主義は素朴な生活実感(=汗水垂らして働くのは尊い)ではなく、人間の強欲(=投資や金融によるお金儲けは正しい)に基づいている。

 その意味では、日本には未だに資本主義の精神は根付いていない(必ずしも悪いことではない)。

 「汗水垂らして働くのが尊い」という勤労の美徳は、むしろ共産主義や社会主義と相性がいい。そして、現実には奴隷労働や強制収容所を生み出した。現代日本にも過重労働のブラック企業がある。

 1991年のソビエト連邦崩壊により、資本主義陣営は共産主義陣営に勝った。

 人類にとって、資本主義が偉大な発明だったのは、人間の強欲に基づくシステムであるにもかかわらず、豊かな社会と生活を実現した点にある。

 一方、勤労の美徳と禁欲に頼る共産主義陣営は、どんどん国が貧しくなって、強制労働や収容所を生み出した。

 これは、資本主義の精神(=投資や金融による収益を肯定する価値観)は、勤労の美徳(=汗水垂らして働くのを美徳とする価値観)に勝ったことをも意味する。更に言えば、強欲は禁欲に勝ったのである。

 素朴な生活実感に基づけば、「人間の強欲を肯定する」などと言うのは、まともな人間の言うことではない。

 少なくとも、「行き過ぎた投機やマネーゲームには規制が必要」みたいに言った方が、見識があるようにみえる。しかし、それでは資本主義の革新性が理解できない。

 「楽して大儲けしたい」という人間の強欲を肯定した結果、僕たちは豊かな社会と生活を手に入れた。

 教養人であれば、ここで「物質的に満たされても、精神面では満たされない」などとケチを付けるのが定番だ。

 しかし、人間の強欲を肯定するシステムが、衣食住に困らない世の中を作り上げた実績は、もっと評価されてしかるべきだと僕は考えている。

 山田宏哉記

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2013.9.21 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ