ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3296)

 なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか 

 昨年書いた記事だが、「日本人の7割には中学レベルの知識もない」が、注目されたようだ。

 この時は、まずは実態を書くことを重視し、その理由や原因については、踏み込んで書かなかった。これは関心度が高いテーマのようなので、掘り下げて考えたいと思う。

 そもそも、人間が生きていくために必要な「最低限必要な知識」とは何だろうか。

 自分(と家族)の名前や住所、挨拶をする程度の日常会話、買い物に必要な計算は、「知らない」では済まない。自分の性別も知っておかないと、うっかりトイレを間違えて、犯罪者になるリスクがある。自分の生年月日も、覚えておくべきだろう。

 これらは当然、文字でも読み書きできるようにするべきだ。「何のために覚えるのか」と議論する余地はない。

 ただ、逆に言えば、この程度の知識があれば、最低限の市民生活は送ることができる。

 知識は、大きくは「知的好奇心を満たす知識」と「生活に必要な知識」に分けられる。

 「地球は太陽の周りを回っている」というのは知的好奇心を満たす知識であり、「太陽は東から昇って、西に沈む」というのが、実用的な知識だ。

 仮に知的好奇心より実用を優先する教育をするのであれば、「太陽は東から昇って、西に沈む」という点は教える必要があるが、「地球は太陽の周りを回っている」という点は、教えなくても良いと思う。日常生活には支障がないからだ。

 (もちろん、教養がある人たちとの間の会話で、「地球の周りを太陽が回っている」などと主張したら、大恥をかくことになる。但し、ここでは恥や虚栄心の問題は切り離し、実用性だけを問題にする)

 以前、数学で「円周率を3.14から3に変える」ことが学力低下の象徴とされた。

 ところで、実生活で円の面積を計算した経験のある人は、どれだけいるだろうか。大半の大人は、円の面積を出す公式(=半径×半径×円周率)すら忘れている。

 円周率を3.14にするか、3にするかを議論する以前の問題として、円の面積の出し方を知らなくても、日常生活ではさほど困らない。

 根本的に考えると、人間が生きていくために真に必要な知識は、さほど多くない。

 遅くとも、小学校と中学の保健の授業で必要な知識を教え切ってしまう(純粋に実用性だけを見れば、中学生には保健の授業で性的なことを教えるだけでもいい)。

 本当に必要な知識は、小学校と中学の保健の授業で教え切ってしまう。後は「知的好奇心を満たす知識」であり、あくまで「知らないと恥ずかしい」というレベルのものだ。

 僕自身は、安易に「学力低下が深刻な問題」という論調には与しない。

 ではなぜ、学校は「必須知識のネタ切れ」にもかかわらず、教育を続けるのか。

 定期的に書く話だが、そもそも学校が果たすべき社会的機能は、「教育を実施すること」ではない。「情緒不安定な少年少女を、一般社会から隔離すること」こそ、学校の存在意義である。

 「情緒不安定な少年少女を、一般社会から隔離する」ことの目的は、2つある。

 「子どもたちを一般社会の悪影響から守る」という目的と、「子どもたちが一般社会に迷惑をかけないようにする」という目的だ。学校がやっていることの本質は、"未成年収容事業"である。

 教える内容は、真に必要な実用知識よりも、「知的好奇心を満たす知識」の方が多い(「それが悪い」とは言わない)。

 学校が収容施設であることは、高校でハッキリする。

 日本の中学生は、中学卒業時点の学力に応じて、高偏差値の進学校と低偏差値の暴力学校に振り分けられていく。これは、懲役刑の重さに応じて、服役する刑務所を変えるのと同じロジックである。

 低偏差値の暴力学校では、生徒の犯罪レベルが高いので、特に厳重に管理しなければならない。暴力学校の不良男子は、木刀片手にバイクを乗り回し、不良女子は売春に精を出す。彼らの犯罪を抑制するのが、暴力学校の教職員の最優先事項である。

 暴力学校において、授業が成り立たないのは、みんなわかっている。しかし、それで構わないのだ。大切なのは、犯罪レベルの高い生徒を学校の内部に閉じ込めて、世間に迷惑をかけないようにすることである。

 公立中学に通っていた人は、同級生が学力に応じて進学先を振り分けられるのを目にしたと思う。これは「犯罪レベル」に応じた振り分けでもある。凶悪な生徒は、特定の暴力学校に進学する。正確には、「進学する」のではなく、「収監される」。

 尾崎豊の肩を持つわけでもないが、彼が「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」とか「この支配からの卒業」とか歌っていたのは、学校が収容施設だと気付いていたからだろう。但し、尾崎豊自身は青山学院高等部に合格する秀才であり、低偏差値の暴力学校にいたわけではない。

学校で部活動が推奨される本当の理由も、「非行に走る時間とエネルギーを奪うため」である。逆に、帰宅部が悪く言われるのは、それが「潜在犯」の行動だからだ。

 低偏差値の暴力学校に進学しても、将来、就ける職業は限られてくる。おそらくは、途中でできちゃった婚でもして、知識や教養は必要とされない職に就くことになる。

 更に言えば、日本の下層市民は、朝からパチンコ店の前に並び、サラ金でお金を借りて、寝転がってテレビを見ながら「あぅあぅあぅ」と寝言を垂れている。一生懸命になるのは「風俗店で腰を振るときだけ」。

 そういう下層市民に、わざわざ歴史や物理を教える必要はあるのか。街中で通り魔事件とかを起こさなければ、それで充分ではないか(もちろん、本人が自分から「学びたい。教えて欲しい」と言うのであれば、拒む理由はない)。

 結論として、「なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか」に対する答えは「義務教育の内容の大半は、生きるのに必要ない知識なので、理解できず、忘れてしまうから」となる。

 その背景には、そもそも「学校の本質は、少年少女を一般社会から隔離する収容施設」という事情がある。

 従って、仮に日本人の大半が、義務教育の内容を理解できなかったとしても、実は大した問題ではない。

 なぜなら、「6歳から15歳の間、学校に通わせる」ことに成功したなら、その時点で、「少年少女を一般社会から隔離する」という本来の目的を達成しているからである。

 山田宏哉記

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2013.9.22  記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ