ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3299)

 "この世にいらない人間"の絵画展

 先日(2013年9月29日)、渋谷のギャラリー大和田で開かれた「死刑囚の絵画展」に行ってきた。

 死刑囚の作品が約100点展示してあり、中にはオウム真理教の幹部だった岡崎一明(現在は宮前一明)や毒カレー事件の林眞須美の作品も展示してあった。

 作品として特に印象的だったのは、風間博子の「無実という希望」、北村孝紘の「福引き地獄」「自画生首図」、万年三太郎の「(漫画)獄ちゅう物語・その壱・その弐」、松田康敏の「タイムスリップ あの時代へ」、宮前一明「思惟の慟哭」だ。

 この中で、松田康敏は、2012年3月29日に死刑が執行されたので、もうこの世にいない。

 いずれの作品も、死刑執行の恐怖に怯えて、気が狂いそうな精神状態で描かれている。彼らの「最後の足掻き」でもある。

 死刑囚とは「この世にいらない人間」と判定され、殺処分を待つ人々である。

 だからこそ、死刑囚の心象風景や死刑執行の恐怖に触れることになり、見る側にも大きなストレスがかかる。自分が死刑囚ではないことに、思わず感謝してしまう。

 個人的には、死刑制度は廃止すべきだと思う。理由は簡単で、合理性がないからだ。

 犯行中の犯人をその場で処刑するのであれば、「被害者の拡大を防ぐ」という合理性がある。裁判にかけられた被告人を死刑にすることには、合理性がない。

 死刑囚を処刑したからと言って、被害者が生き返るわけではない。だったら、わざわざ死刑囚を殺す必要はない。

 僕たちが殺人犯に対して死刑を望む本質的な理由は、「懲罰欲求」と「感情的な納得」のためである。

 確かに、「懲罰欲求」や「感情的な納得」は大切ではあるが、人命と天秤にかければ、人命の方が重い。

 もっとも、殊更、「死刑囚は死ね死ね死ね。奴らを生かしておくのは税金の無駄遣い」と思うのが、間違っているとは思わない。

 むしろ、動物の本能に照らせば、「殺せ、殺せ」という立場の方が共感を得られると思う。

 ただ、僕はそういう考え方をしないし、個人的な美学にも沿わない。

 こういう問題は、動物の本能に突き動かされるところが大きく、人間の理性で他人を説得することはできない。

 但し、これだけは強く言っておきたい。

 僕たちは死刑囚が起こした事件を、エンターテイメントとして消費してきた。

 オウム事件も、毒カレー事件も、秋葉原の無差別殺人事件も、退屈な日常に刺激を与えるには充分だった。

 「人が死なない映画はつまらない」という話は、フィクションに限定された話ではない。

 凶悪な連続殺人事件が起これば、テレビのワイドショーの視聴率が上がるし、週刊誌の販売部数は伸びる。

 不謹慎を承知で書くが、僕たちは、死刑囚が起こした事件でとても盛り上がった。僕自身、これらの事件(=他人の不幸)を記事のネタにしてきた。

 死刑囚が「この世にいらない人間」であるなら、僕たちは「生きるに値する善良な市民」である。

 時々、良心が痛むから、勝手に「被害者の気持ち」を推測して、代弁したりもする。

 そう、僕たちは、殺人事件をエンターテイメントとして消費する「善良な市民」なのである。

 山田宏哉記

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2013.10.1  記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ