ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3300)

 半径5メートルの世界と希少スキル

 個人的に、新たなスキルを習得する必要に迫られた。

 世間一般でみれば技能を持っている人が多いだろうし、殊更、「注目のスキル」として騒がれているわけでもない。ただ、半径5メートルの世界では希少なものだった。

 今回は、この「半径5メートルの世界では希少」という現象を、掘り下げて考えたい。

 最近は、「既存のスタッフにスキルを習得させるより、スキルのある人を中途採用したり、外注した方が効率的」という考え方が目立つ。

 僕はこのような考え方には盲点があると思う。

 「"雇う価値のあるスキル"など、そもそもない」という点と「既にいる社員に固定費として給料を払っている」という点だ。

 例えば、ある職場でエクセルとパワーポイントが使いこなせる社員がいないとする。

 それでは、この会社が「エクセルが使える人」と「パワーポイントが使える人」をそれぞれ年収300万円で求人募集するのは合理的な判断か。

 合理的ではない。既存社員を訓練して、エクセルを使いこなせるようにする方が、遥かに安上がりで済む。

 そもそも、今の時代、「このスキルを身に付けている人であれば、誰でもいいから雇いたい」と言えるような技能は存在するか。僕は「存在しない」と思う。

 大切なのは「希少性の高いスキルを身に付けること」ではなく、「手持ちのスキルの希少性を高めること」だと思う。

 就職については「この人と働きたい」という評価を得られるかどうかが、全てだ。

 スキルは料理で言えば調味料のような存在で、あくまで素材の引き立て役だ。調味料だけでは料理として成り立たない。

 その意味では、大切なのは「希少性の高いスキルを身に付けること」ではなく、「手持ちのスキルの希少性を高めること」だと思う。

 希少性については、男女の比率を例に取ると、わかりやすい。

 世の中の男女の比率はおおよそ1:1だが、環境によっては、この比率が歪むことになる。大学の工学部や街の空手道場のような場所では女性比率が低くなるし、お料理教室などでは男性比率が低くなる。

 男女比率が1:1の環境では、単に「男であること」「女であること」だけを理由に注目されることはないが、男女比率が歪むと、性別が重要な意味を持ってくる。

 女子校(男子校)の教師になれば、平凡な男(女性)でも、生徒が擦り寄ってきたりする。

 性別は世間一般では希少ではないが、特定の環境では男女比率が歪み、価格が高騰する。仕事のスキルについても、これと同じことが言える。

 例えば、ウェブサイトの構築スキルがある人は、IT企業に就職しようとする。但し、本当は土建屋や水商売のような「IT後進業界」で働いた方が、希少性があり、ITスキルを高く売れるのではないか。

 あるいは人前で話すのが得意なら、「会話能力が高い人が集まる会社」と「会話能力が高い人がいない会社」のどちらを選ぶべきか。直感的には前者を選びがちだが、後者の方が他の人と差別化しやすい。

 半径5メートルの世界をよくよく観察し、どのような人材、どのようなスキルが希少なのかを見極めて、そのポジションを取る。

 これでは"お山の大将"だが、日常生活を営む上では、"お山の大将"でもいいのだ。

 まずは、半径5メートルの世界で自分の強みを発揮してナンバー1になり、信頼されるようになるのが、大切だと思う。

 山田宏哉記

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2013.10.11  記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ