ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3303)

 あえて愚行を為す権利

 朝から、パチンコ店の前に行列をつくる人々がいる。

 朝からパチンコ屋の前に並ぶ人々に、「自分の人生を根本的に見直した方が良い」と助言するのは妥当ではある。

 彼らが将来、世の中の底辺を這いつくばることになるのは、容易に予想できる。

 もっとも、実際に助言したりはしない。その理由のひとつは、「自分と関係がない」からであり、「既に人間として終わっていて、更生不可能」という冷酷な判断があるからだ。

 但し、もっと大きくみれば、これは自由の根本に関わる問題である。

 なぜなら、「人間にはあえて愚行を為す権利がある」のであり、この"愚行権"こそ、自由の核心であるからだ。

 パチンコ中毒になって、財産を吹き飛ばすのは愚かだが、あえてそれを為すのは個人の自由だ。他人にとやかく言われることではない。

 例えば、太り過ぎている人がチョコレートを食べ過ぎたり、喘息気味の人が煙草を吸うのは、客観的に見れば愚かである。本人もわかっているだろう。

 但し、健康に悪かろうと、敢えてそれを為す権利はある。一時の快楽のために、将来を犠牲にする選択は「あり」だ。

 愚行とは、「"今"を優先する不合理な時間選好」と言い換えることもできる。

 学校の部活動でハードな練習や試合をして、後遺症が残るくらいに身体を壊すのは、客観的に見れば愚行である。甲子園や駅伝はまさにそういう世界だ。但し、それに青春を賭ける自由はある。

 美術大学や音楽大学への進学は、大半の人にとって、愚行に終わる。在学中の4年間、一端のアーティストを気取る代償は、その後の人生に重くのしかかる。

 それでも、「大学時代さえ良ければ、その後の人生はどうなっても構わない」という選択は「あり」だ。

 フリーターをしながら、プロの役者やミュージシャンを目指すのは、客観的にみれば愚かである。歳を重ねれば、その分、不利な就職先しかなくなるし、念願が叶ってプロになれる可能性は殆どない。

 それでも、あえてその選択をする権利はある。

 かつて学生運動が盛んだった頃、連合赤軍事件のような闘争に関わった人たちは、"総括"で殺されたり、刑務所に入れられたりして、人生を棒に振ることになった。

 客観的にみれば愚かだったが、「一瞬の狂騒に全てを賭ける」という若者の情熱は、必ずしも否定すべきではない。

 一般には、将来のことを計画的に考えて生きるのが立派で、刹那的に生きるのは愚かだ、とされる。この対比は、アリとキリギリスの寓話でもなされている。

 但し、アリとキリギリスのどちらを選ぶかは各人の人生観の問題であり、他人に指図されることではない。

 スポーツや芸術に打ち込んだり、賭博で勝負することに、「人生の本質」を感じるなら、他人が何と言おうと、それを為す自由はある。

 人はそれぞれ、譲れないものを持っている。そのために、不合理な選択をしてしまう。でも、本当はそれこそ「人生の輝き」そのものなのではないか。

 あえて損を承知で為す愚行の中にこそ、人が人たる所以が含まれていると僕は思う。

 山田宏哉記

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2013.10.12 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ