ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3306)

 刑務所で学ぶ仕事論

 昨日(2013年11月3日)、府中刑務所の中を見学する機会があった。刑務官の説明を聴きながら、受刑者たちの作業場や浴室などを見て回ることができた。

 刑務所と言えば、「まっとうな人間には関係ない場所」と思われがちだが、そうではないと思う。学校や会社という組織は、案外、刑務所との共通点が多い。

 例えば、子どもを学校に収容するのと、犯罪者を刑務所に収容するのは、本質的には同じことだ。「社会に迷惑をかける人物」を一般社会から隔離することで、治安と風紀を維持するわけだ。

 企業が社員に求める「規律と服従の精神」も、刑務所の価値観と相性が良い。

 企業の新人研修で自衛隊への体験入隊が人気なのと同様、新人研修として「刑務所での体験就業」が可能になれば、人気が出ると思う。

 「規律と服従」を体得するのに、これ以上に恵まれた環境はない。社員に「奴隷のメンタリティ」を植え付けたい場合にも効果的だ。特に、飲食や小売で求められる人材像は、刑務所の模範囚とかなり重なっている。

 会社組織の中では、全員に平等に仕事が行き渡るわけではない。仕事が無くて、仕事してるフリをしなければならない人もいる。

 それに比べれば、刑務所の受刑者には、やるべき作業が明確に与えられている。この点は恵まれていると思う。

 また、刑務官によると、刑務所の中では、受刑者に資格習得や技能向上を奨励している。これは一見素晴らしいことだし、受刑者の勤労意欲を維持するため、必要なことだ。

 但し、刑務所内でされている自動車整備や印刷、革製品の製造などは、残念ながら、「消えゆく仕事」だった。刑務所内で習得した資格や技能が出所後に役立つかは、微妙なところだ。

 刑務所内の工場を見学したり、刑務官の話を聴いて思ったのは、やはり「受刑者は気の毒だな」ということだった。

 刑務所が更生施設であるなら、受刑者に「消えゆく仕事」をさせ、「使えない技能」の習得を奨励するのは問題だと思う。ただでさえ、出所後、まともな職に就ける確率は低いのに、所内で習得するのが裁縫や陶芸のスキルでは、更に就職で不利になると思う。

 また、刑務所で働いていると、指示待ち人間になってしまう可能性は高いと感じた。決められた作業を、決められた方法でやる。言われたこと以外は、やらない。これは、工場の作業員としては良いが、思考やアイディアが重要になる職種では、大きな成果を出せない。

 刑務所の外で働く善良な市民を差し置いて、受刑者に有益な技能を習得させるのは、それこそ不公平かもしれない。

 犯罪者でなくても、「消えゆく仕事」に従事している労働者はたくさんいる。

 受刑者に「消えゆく仕事」「時代に合わない働き方」をさせるのは、「懲罰」という意味では妥当なのかもしれない。

 山田宏哉記

【関連記事】
就職活動の勝敗は10歳の頃に決まっている(2013.10.25)
『ちびまる子ちゃん』で学ぶ「教室内カースト」(2013.10.20)
なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか(2013.9.22)
勤労の美徳と資本主義の強欲 (2013.9.21)
ウェブへの上場と不特定多数による評価 (2013.9.16)
仕掛けと手仕舞いの仕事論 (2013.8.31)
"この世にいらない人間"と動物的本能の暴走 (2013.8.20)
人間的魅力の効用と限界 (2013.7.28)
勤勉という美徳の終わり(2013.6.30)
仕事がなくて暇な会社員(2013.6.30)
勉強で得られる知識は、価値が低い(2013.6.22)
仕事が好きな人、嫌いな人(2013.6.1)
仕事に"専門的な知識と能力"は必要か(2013.4.27)
ビジネスでは、あまり努力しない方が良い理由(2013.4.20)
誰が「腐った人材」を養うのか(2013.4.13)
「パンを分け合う仲間」としての会社(2013.3.30)
なぜ、あの人は「本を読むバカ」なのか(2013.3.26)
「やればできる」の仕事論(2013.3.23)
なぜ、ユニクロの離職率は高いのか(2013.3.16)
若者よ、貯金は止めた方が良い(2013.3.12)
英語公用語化の真意(2013.3.9)
薄給の時代 、副業の損得勘定(2013.3.2)
株で勝つのが難しい理由 (2013.3.2)
残業を良しとする"村の論理" (2013.2.24)
お金を稼ぐ力、組織を泳ぐ力(2013.2.16)
「みんな」という名の不審人物(2013.2.9)
リスクヘッジとしての株式投資(2013.2.2)
勤労の国の幸福なサラリーマンたち (2013.1.27)
公務員の"駆け込み退職"騒動の本質(2013.1.26)
株式投資の「究極の目標」とは何か(2013.1.23)
シャープ株の売買で気付いたこと(2013.1.17)
"試練の場"としての株式投資(2013.1.14)
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
あの人が嫌われる理由 (2012.6.4)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)



2013.11.4 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ