ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3308)

 TV電話が普及しない本当の理由

 僕が子どもの頃、TV電話は典型的な「21世紀の技術」だった。実際、TV電話は技術的にはもうできている。

 建前を言うなら、通常の電話による声だけのコミュニケーションより、相手の表情を見ながらの方が、より濃密で、細かいニュアンスまでやり取りできる。

 しかし、普及しない。普及する気配すらない。

 むしろ逆に、通常の電話より「コミュニケーションの濃度」を低く抑えたメールの方が、一般に普及することになった。

 メールの弊害については、これまで散々言われてきた。

 「文字だけのコミュニケーションでは細かいニュアンスが伝わらない」「誤解を招く恐れがある」「隣の席の人とメールをするのは非効率」云々。メールの弊害の指摘は、大抵、「その通り」だ。

 これらの問題は、コミュニケーション濃度の低いメールを廃止して、コミュニケーション濃度の高いTV電話に置き換えれば、解決するはずだ。なぜ、それをしないのか。

 本当の話をしよう。

 「人間はあまり、他人と接するのが好きではない」のだ。

 平和で安全な世の中では、人間関係はドライになり、コミュニケーションは希薄化する。この流れは、動物の本能に近いものであり、基本的には変えられない。

 「人と接するのが好き」と言う人は多いが、本当にそうなら、わざわざ公言する必要はない。

 果たして、人と接するのが好きな人は、満員電車やラーメン屋の行列に歓喜しているだろうか。「すいている方がいい」と思うのは、ごく自然な感情のはずだ。

 人が都市に集まる究極の理由は、隣人と「最小限の接触」で暮らせるからだ。

 ネットカフェあるいは漫画喫茶が普及した理由のひとつも、「店員が客に干渉しない」という接客スタイルにある。個室空間で客同士の接触も殆どない。他人との接触が最小限になるように設計されている。

 実際には、都市やネットカフェ、メールのような「コミュニケーションの濃度を下げる」「他人との接触を最小限にする」ものこそ、人々の支持を得る。

 TV電話は音声だけの電話より、「コミュニケーションの濃度」が上がって、息苦しくなってしまう。こういうツールは、物珍しさから一時的に使ってみることはあっても、日常生活には根付かない。

 表向き「TV電話のメリット」と言われている点こそ、実はTV電話の致命的な欠点なのだ。

 山田宏哉記

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2013.12.7 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ