ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3312)

 ギャンブルとしての原発問題  

 実生活でこんな話をする機会があった。

 「結局のところ、原発の近隣に住むのは、非常に損。放射能の心配をして暮らすのは精神衛生上、良くないし、『原発は絶対安全』みたいなプロパガンダを信じると、いざという時、大変な目に遭う。」

 原発の近くに住むのは、健康や不動産を賭けた「ギャンブル」である。

 ルールは単純で、「重大事故が起きなければ、地元住民の"勝ち"(=シャブ漬け交付金をゲット)」「重大事故が起きれば、地元住民の"負け"(=健康被害や強制移住)」。原発近隣の住民は、この点をよく自覚する必要がある。

 原発の近くに住むリスクは、健康被害と重大事故により土地や自宅を廃棄することになる可能性があること。リターンはシャブ漬け交付金で、雇用が増え、公共サービスが充実することだろう

 「自分や家族の健康」や「先祖代々の土地や家」と「シャブ漬け交付金による雇用増、公共サービスの充実」を天秤にかけた時、どちらを優先するかは、各人の価値観による。
これを言うのは酷だが、原発を誘致した自治体の住民は、前者より後者を優先したのだろう。

 ギャンブルとしてみれば、原発近隣の住民は、「自分や家族の健康」や「先祖代々の土地や家」を賭けて、「シャブ漬け交付金」の恩恵を手にした。

 これはいわば「オプションの空売り(=何も起きなければ儲かる)」であり、万一、事故が起きた際には、全てを失う上、借金まみれになる。

 相場の定石に従うと、個人は「オプションの空売り」をするべきではない。

 これを原発や原発事故に当てはめると、原発の近くには住むべきではないし、「放射能は危なくない。被曝しても安心安全」みたいな態度も取るべきではない。「賭けに負けた時の代償」が大き過ぎるからだ。

 「オプションの空売り」をわかりやすい例で言えば、「保険会社の立場」だ。

 保険会社は通常、「火事が起きない」側に賭ける。そのために確率や統計を駆使する。仮に火事になる家があったとしても、火事にならない大多数の家から受け取る定期的な保険金で補償金を賄うことができる。この考え自体は、間違っていない。

 仮に、ここで色気を出した個人が「定期的に掛け金を受け取れるのはありがたい。どうせ、火事は起きないだろうから、掛け金を丸儲けだ」と考えたらどうだろうか。

 確かに一定期間内に火事はおきない可能性は高い。おそらく掛け金を丸儲けできるだろう。但し、仮に火事が起きれば、巨額の補償金の支払いをしなければならない。

 「何も起きなければ勝ち」という賭けは、(勝率が高いので)リターンが小さい上に、(確率は低いが)何か起きれば、破滅的な結果を招く。保険会社が「薄利多売」でやる類のもので、一度切りの人生を生きる個人が、取るべきポジションではないと思う。

 福島第一原発の近隣住民は気の毒である。ただ、純粋にギャンブルとしてみれば、福島第一原発の近隣住民は賭けに負けたのであり、全てを失っても文句は言えない。

 海辺に新築の家を建てるのも、「津波はここまでこない」と賭けるのに等しい。賭けに勝てば、毎日、魅力的な景色を眺められる。一方、賭けに負ければ、津波で家を失うことになる。ハイリスク・ローリターンだが、勝率は高い(僕なら、この賭けはしないが)。

 当たり前だが、ギャンブルに負けて、財産を失っても、それは自己責任である。

 従って、原発近隣に住むのは、「原発事故なんて、起きるはずがない。シャブ漬け交付金の恩恵を受けた方が得に決まっている」と考える人に限定した方が良いと思う。その代わり、実際に重大事故が起きても、「賭け」に負けたのは自己責任であり、一切、公的な保障はしない。

 少なくとも、リスクとリターンを曖昧なままにする現状より、この方がフェアだろう。

 山田宏哉記

【関連記事】
タクシーに未来はあるか -業界復活の切り札-(2013.12.21)
TV電話が普及しない本当の理由(2013.12.7)
就職活動の勝敗は10歳の頃に決まっている(2013.10.25)
『ちびまる子ちゃん』で学ぶ「教室内カースト」(2013.10.20)
なぜ、日本人の7割には中学レベルの知識もないのか(2013.9.22)
勤労の美徳と資本主義の強欲 (2013.9.21)
ウェブへの上場と不特定多数による評価 (2013.9.16)
仕掛けと手仕舞いの仕事論 (2013.8.31)
"この世にいらない人間"と動物的本能の暴走 (2013.8.20)
人間的魅力の効用と限界 (2013.7.28)
勤勉という美徳の終わり(2013.6.30)
仕事がなくて暇な会社員(2013.6.30)
勉強で得られる知識は、価値が低い(2013.6.22)
仕事が好きな人、嫌いな人(2013.6.1)
仕事に"専門的な知識と能力"は必要か(2013.4.27)
ビジネスでは、あまり努力しない方が良い理由(2013.4.20)
誰が「腐った人材」を養うのか(2013.4.13)
「パンを分け合う仲間」としての会社(2013.3.30)
なぜ、あの人は「本を読むバカ」なのか(2013.3.26)
「やればできる」の仕事論(2013.3.23)
なぜ、ユニクロの離職率は高いのか(2013.3.16)
若者よ、貯金は止めた方が良い(2013.3.12)
英語公用語化の真意(2013.3.9)
薄給の時代 、副業の損得勘定(2013.3.2)
株で勝つのが難しい理由 (2013.3.2)
残業を良しとする"村の論理" (2013.2.24)
お金を稼ぐ力、組織を泳ぐ力(2013.2.16)
「みんな」という名の不審人物(2013.2.9)
リスクヘッジとしての株式投資(2013.2.2)
勤労の国の幸福なサラリーマンたち (2013.1.27)
公務員の"駆け込み退職"騒動の本質(2013.1.26)
株式投資の「究極の目標」とは何か(2013.1.23)
シャープ株の売買で気付いたこと(2013.1.17)
"試練の場"としての株式投資(2013.1.14)
中村淳彦(著)『職業としてのAV女優』覚書(2013.1.4)
読書の費用を回収できるか(2013.1.4)
いかに「読むべき本」を確保するか(2013.1.4)
"紙本主義"の終わりとアマゾンのキンドル生態圏(2013.1.1)
信仰告白のビジネスモデル (2012.12.29)
iPhoneの防水ケースと家電量販店の終わり(2012.12.26)
なぜ、デートでサイゼリヤに行ってはいけないのか?
(2012.12.22)
ペニーオークション詐欺の教訓(2012.12.22)
汗で稼いだ一万円、投資で稼いだ一万円(2012.12.19)
実務に活かす株式投資(2012.12.15)
アウトソーシング時代の働き方(2012.12.8)
「飽きないこと」を仕事にする(2012.12.2)
ビジネスに活かす優先的選択(2012.11.27)
もしも世界が男女10人ずつの高校の教室だったら
(2012.11.25)
"ホームレス転落"という悪夢 (2012.11.24)
映画『シルク・ドゥ・ソレイユ』に学ぶ人材配置 (2012.11.18)
シュートを打つ人、パスに逃げる人 (2012.11.17)
若さゆえの飢餓感 (2012.11.17)
動物王国としての実社会 (2012.11.11)
人生を語る不誠実さ (2012.11.11)
映画『009 RE:CYBORG』覚書(2012.11.4)
なぜ、経歴を詐称するのか(2012.11.3)
愛は地球を救えない(2012.10.24)
労働貧困層と生活保護(2012.10.22)
ルサンチマンのある人生(2012.10.18)
世界は"不本意な職業"で溢れている(2012.10.15)
不本意な職業を受け入れる(2012.10.13)
僕たちは「格差社会」を望んだ(2012.9.24)
「人間好き」のファシズム (2012.9.17)
強者はデモに参加するか(2012.9.15)
撤退戦としての介護(2012.9.1)
「仲間外れ」の構造(2012.6.26)
反知性主義の国・日本(2012.6.24)
日本人の7割には、中学の教科書レベルの知識もない
(2012.6.23)
読書を実務に活かす暗黙のプロセス (2012.6.23)
教職に逃げる大人たち (2012.6.21)
最近の若者はバカばかり(2012.5.26)
「カネのため働く」という建前(2011.12.25)



2013.12.31 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ