ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3324)

 エースストライカーになる人、球拾いで終わる人

 「与えられた仕事で、精一杯頑張るだけ」と言う人は多い。

 それはある程度、正論ではある。但し、注意が必要なのは、そもそも「与えられる仕事」の質やレベルは、人によって全く異なる点だ。そして、「与えられる仕事」によって、出せる成果には自ずと限度がある。

 学校のサッカー部を例に考えてみよう。

 言わずと知れているが、「球拾い」という役割がある。ボールがあらぬ方向に飛んでいった時、追い掛けてボールを掴み、グラウンドに返す役目だ。

 学校の部活動では、新入生は大抵、球拾いから始める。先輩たちが練習に集中できるよう、球拾いたちは日夜、縁の下の力持ちとして、頑張っている。

 球拾いは、誰かがやらなければならない。自ら積極的に、球拾いをする心意気は尊いものである。

 また、エースストライカーだからと言って、球拾いに対して、偉そうな言動を取って良いわけではない。エースストライカーが競技に集中できるのは、球拾いがいるからである。

 但し、いくら一生懸命球拾いをしても、それだけでは、高い評価を得られない。少なくとも、試合には出られない。この点には、充分な注意が必要である。

 サッカー部の監督が「試合に勝つこと」を目的に据えるなら、「誰を出場させれば、試合に勝てるか」を最優先に考えるのは当然である。「球拾いを評価して、試合に出場させる」という判断はあり得ない。

 「できて当たり前」の球拾いをいくらやっても、成果にはならない。先発メンバーに指名されるのは、試合で実績を出した人間であり、球拾いを完璧にこなす人間ではない。

 ビジネスにおいても、重要なプロジェクトをやる時、メンバーに「球拾いだけをしてる人」を指名することはない。重要プロジェクトは、球拾いの人が預かり知らぬところで企画され、メンバーが決定し、成果が山分けされる。

 エースストライカーは球拾いより高く評価されて然るべきだし、多くの報酬を受け取る権利がある。

 しかも、スポーツの世界では、先発メンバーは一旦決まると、そのまま固定化しやすい。先発メンバーは試合を経験することで、さらに実力が伸びるからだ。

 球拾いをしているだけの人は、試合を経験できないので、実力も伸び悩む。その結果、ずっと球拾いの立場に甘んじることになりがちだ。

 エースストライカーを目指すなら、試合に出場しなければないし、試合に出場するには、練習の中で、監督に「こいつを起用すれば、試合で活躍しそうだ」と思ってもらわねばならない。

 エースストライカーになるために競争している人と、球拾いをしているだけの人では、そもそも仕事の捉え方が全く違う。前者にとって仕事は「自ら獲得するもの」だが、後者にとって、仕事は「降ってくるもの」である。

 「真面目に球拾いを頑張るだけ」でも、組織に必要な人にはなれるが、それでは試合には出場できない。

 サッカー部で言えば、試合に出場するには、普段の練習などを通して、監督にアピールすることが必要だ。アピールすべきは、あくまで「こいつなら、試合で活躍できそうだ」という点であり、決して「真面目に球拾いをやっている」という点ではない。

 そして、僕は長い間、一生懸命、「球拾い」をやっていた。

 働く上で、「エースストライカーを目指すのか、球拾いに徹するのか」は、どちらの道を選ぶにせよ、自覚的になった方が良いと思う。球拾いの仕事は向こうから飛んでくるが、エースストライカーの仕事は、自ら勝ち取らなければならない。

 ビジネスも同じだが、これに気付いていない人が多い。僕自身、気付いていなかった。

 「与えられた仕事を精一杯頑張るだけ」と言う人は、「球拾いを精一杯頑張るだけ」の新入生と同じだ。こういう人は、下手をすると、球拾いをするだけで、部活動を終えてしまう。

 もちろん、「(試合に出れなくても)それだけで充分だ」だと思えるなら、球拾いに徹するのは、ありだろう。

 僕は球拾いを否定する気は、全くない。僕も長い間、「球拾い」をやっていた。

 真面目にコツコツ球拾いをして、仲間から感謝されて、気晴らしに酒の席で盛り上がる。それも、素晴らしい人生だ。何もエースストライカーを目指して競争するだけが、人生ではないのだ。

 山田宏哉記

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