ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3328)

 日雇い派遣に学ぶ「仕事をしているフリ」の問題  

 日本の労働現場に「仕事をしているフリ」という問題があることに気づいたのは、約10年前、日雇い派遣で働いていた時だった。

 当時、日雇い派遣の現場には結構、「手待ち時間」と「作業の当たり外れ」があった。そして、現場で自分を守るためには、「仕事をしてるフリ」が結構重要だった。

 日雇い派遣の現場では、「誰が何をやる」ということが、キッチリ決められていないことが多かった。特に事務所移転などでは、やるべき作業が次々と変化する。

 危険な「外れ作業」を割り当てられないためには、変化に応じて、自分が受け持つ作業を確保する必要があった。

 要はあまり目立たないようにして、「平均的な強度の作業を確保する」ことが極めて重要だった。というのは、危険な作業は本当に危険で、大怪我をする可能性もあったからだ。

 危険なことで記憶に残っている作業の1つは、エレベーターがない現場で、重い家具や什器を持って、階段を上る作業だった。

 当然だが、家具や什器と一緒に階段を転げ落ちたら、無事では済まない。下手をしたら、落下する家具や住器に押し潰されて、命を落とす危険すらある。こういう作業は多くの人が敬遠した。

 なお、「重い家具や什器を持って、階段を上る」という危険な作業をさせられた現場の1つは、児童養護施設だった。児童養護施設を描いたTVドラマが話題になっているようだが、この記憶があるため、僕は児童養護施設に対して、良い印象は持っていない。

 また、日雇い派遣の現場では、目の前で資材が倒壊して、壁に大きな穴を開けたことがあった。これも下手に巻き込まれたら、無事では済まない。

 日雇い作業員は心得たもので、誰に言われなくても、本能的に危なそうな場所には立たない。また、資材の倒壊を食い止めようとはしない。

 日雇い派遣の現場の多くは、労働基準法を無視しており、怪我をしても(下手をすると死んでも)、自己責任だった。日雇い派遣の労働者が「転落死」した事例を聞いたこともある。

 重大な事故に巻き込まれた日雇い作業員は気の毒だと思うが、実際に自分が現場で働いていると、どうしても自分が生き残ることが優先になってしまう。

 また、仲間と言っても、基本的にはその日限りで、大抵、もう二度と会うことはなかった。僕自身、当時は人としてのキャパシティが狭く、他人のことに構っている余裕はなかった。

 危険な「外れ作業」を割り当てられないためには、「今の作業で忙しく、手を離せない」ことをアピールするのが得策だった。

 逆に暇そうにしていると、危険な「外れ作業」が降ってくる。従って、怪我をするリスクの低い作業を確保し、なるべく時間をかけてするのが得策だった。

 今でこそ、僕は「仕事をしているフリ」をする人を批判する。但し、この話はある程度、「恵まれた労働環境」にいることを前提にしている。

 日雇い派遣の現場のように、最低限の安全が確保されていない現場では、話は別である。そういう現場で、自己防衛のため、「仕事をしているフリ」をすることで、危険な作業を回避するのは、仕方ないと思う。

 いずれにせよ、日雇い派遣の現場で生き延びるには、「仕事をしているフリ」という「演技」も重要だったのだ。

 山田宏哉記

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