ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3345)

 "椅子取りゲーム"の世界を才能で生き抜く 

 僕が薄々感じていたことを、為末大さん(@daijapan)がTwitterで代弁してくれていた。

 曰く「成功者は必ず努力しているというのは、むしろ成功者ではない側が立てたいロジックではないか。成功した人にはせめて何らかの犠牲を支払っていてほしい。苦労した時期があってほしい。そうであってくれないと世の中が不条理すぎるという思い。」

 便乗して言うと、僕も「成功者は努力と苦労をしている」というのは、あくまで「凡人の願望」だと考えている。

 僕自身は、とても成功者とは言えないが、やはり努力よりも、才能の方が大切だと判断している。

 学生時代、僕は一生懸命、武術と格闘技の訓練をしていた。辛さや苦労で言えば、文章の執筆やウェブサイトの運営より、遥かに上だった。

 確かに、腕は上達した。しかし、他の人と比べると、訓練に対する上達度合いが、明らかに低かった。

 僕にとって、武術や格闘技の訓練は、いくら一生懸命やっても、他人から評価されず、報われないものだった。

 倒れるくらいに武術の稽古をしても、次々と若手に実力で追い抜かれていった。これは本当にきつい経験だった。

 その一方、文章を書いたり、アイディアを閃いたりすることについては、僕はほとんど努力も苦労もしていない。

 僕は「一生懸命努力したこと」では低い評価しか得られなかった。逆に今では「努力していないこと」で実績を出して、飯を食っている。

 誤解のないように言うと、僕は「ライバルは自分だけ。昨日の自分を超えるのは、人間として素晴らしい」という類の"人間教育"を否定するつもりはない。学校教育の中では、努力と苦労を美化するのは、大事なことだ。

 また、その手の「ありがたい名言」は腐るほどある。

 但し、「それだけでは、仕事として、飯を食うことはできないよ」とは、忠告しておきたい。実社会で飯を食うために大切なのは、あくまで「他人との競争」であり、いくら「昨日の自分」を超えても、他人に負けていたら、仕事を獲得できない。

 世の中を「椅子取りゲーム」にたとえるのはさすがにシニカル過ぎると思うが、少なくとも、仕事やビジネスの世界は「椅子取りゲーム」に近い。男女関係もそうだ。

 その証拠に、世の中で価値や人気のあるものの多くには、「枠」が設けられている。例えば、大学や学校には定員という枠があって、人気校の入試は競争になる。人気企業の採用も魅力的な異性の結婚相手にも、同様に枠がある。

 そして、希望する枠に入るには、どうしても「他人との競争に打ち勝つ」ことが欠かせない。良い悪いはともかく、「他の誰でもなく、自分こそが相応しい」と強くアピールしなければならない。

 他人と比較する生き方が良いとは思わないが、現代はむしろ「自分本位で考え過ぎ」の人が多いと思う。どこかで「自分がライバル」で「昨日の自分」を超えれば、希望する職業に就けると思っている。いや、そんなことはない。

 "人間的成長"みたいな話はあえて無視するが、「仕事としてお金を稼ぐ」という点に絞ると、「訓練の割に、(他の人と比較して)腕が伸びているか」という視点は極めて重要だ。

 費用対効果が悪いなら、その分野で戦うのは不利な選択だ。

 人気分野で「仕事として飯を食うレベル」に達するには、少なくとも、訓練による上達効率が平均より上でないと難しい。

 "椅子取りゲーム"の世界で生き抜くためには、努力や苦労を美化するより、「努力や苦労せずに勝てる分野」を見つける方が、ずっと重要なのだ。

 山田宏哉記

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