ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3352)

 シェアハウスに住むのは合理的な選択か

 近年、シェアハウスという生活形態が注目されている。

 阿部珠恵, 茂原奈央美(著)『シェアハウス わたしたちが他人と住む理由』(辰巳出版)のように、健全な価値観で書かれた本もあれば、シェアハウス内の「性の乱れ」のような点を指摘する声もある。

 実際のところ、シェアハウスに住むのは、合理的な選択と言えるのだろうか。

 予め断っておくと、僕はシェアハウス暮らしを経験したことがない。但し、共同での寮生活の経験はある。現在も、厳密にはシェアハウスの定義からは外れるが、完全な一人暮らしではなく、シェアハウスに近い生活をしている。

 その上で、シェアハウスに住むのが合理的選択かを考えてみたい。

 当然だが、共同生活には個人によって向き不向きがある。「寂しがり屋」とか「一人でいるのが平気」といった個人の性格や気質が大きく影響する。

 ただ、そういう「個人的な性格の問題」を論じても、ただの精神論になってしまうので、ここでは論点を「経済的メリット」「能力向上」「新しい出会い」の3つに絞って考えたい。

 まず、経済的メリットについて。賃料が一定なら、借りる人数を増やすほど、理屈の上では、一人当たりの負担金額は低くなる。

 ただ、個人的印象を言うと、シェアハウス物件の賃料は、一般のワンルームマンションなどの相場と比べて、さほど安いわけではないと感じる。

 これには合理的な理由がある。

 オーナーの視点に立つと、住む人の数が増えれば、その分、各種トラブルの増加を覚悟する必要がある。賃料の相場が15万円の物件をシェアハウスとして3人に貸し出す場合、単純に1人5万円とするのでは、割に合わない。一定金額の「上乗せ」は必須だろう。

 更に事業会社がオーナーから委託されてシェアハウスを運営する場合、「中抜き」をして利益を出すので、その分も入居者が支払う必要がある。

 このような「上乗せ」や「中抜き」分を含めると、シェアハウスに住む経済的なメリットは、さほど大きくはないと思う。

 シェアハウスの経済的メリットは「洗濯機や冷蔵庫などの家具を自前で揃える必要がない」など、割と限定的だろう。

 なお、女性限定のシェアハウスの中には、破格の安さの物件もあるようだが、一般の相場を無視した格安物件には、「裏がある」と考えた方が自然だ。実際、女性限定のマンションやシェアハウスでは、オーナーによる盗撮事件などが発生している。

 能力向上についてはどうか。

 同じ目的を持った人間が、同じ屋根の下に集まり、切磋琢磨して、それぞれの夢を叶えていく。トキワ荘は有名だが、果たしてそんなことが起きるのか。

 私見では、共同生活を通して、専門分野で成果を出すためには、その分野の才能が集まる「中心地」あるいは「聖地」であることが必須だと思う。IT系ならシリコンバレーといった具合だ。

 申し訳ないが、例えば、芝居のプロを目指して、八王子や多摩ニュータウンで演劇系のシェアハウスに入居しても、成果は期待できないと思う。

 但し、専門的な成果ではなく、「日常生活を通して、人間としての基本的なコミュニケーション能力を身に付ける」という話であれば、場所を問わず、共同生活の経験は、非常に有益だと思う。

 また、これは企業が求める能力なので、若い頃に身に付けておいて損はない。適齢期は就職活動や新社会人の時期と重なる18歳から25歳くらいだろう。

 新しい出会いについて。果たして、友人や恋人を作るために、シェアハウスに入居するのはありか。

 例えば、出会いを目的に料理教室に入会する人がいるのだから、出会いを目的にシェアハウスに入居する人がいても、別におかしくはない。

 経験がないので何とも言えないが、例えば、自分のことを平凡だと思っていて、「平凡な友人、恋人が欲しい」と思っている人なら、それもありだろう。

 但し、シェアハウスで出会いを求めるのは非効率で博打的だとは思う。引っ越した場所に好みの異性がいるとは限らないし、たとえ同居者の中に恋愛対象となる人がいなかったとしても、あまり頻繁に引っ越すわけにもいかない。

 総合的に考えれば、出会いを求めてシェアハウスに住むのは、一種の博打であり、合理的な判断ではない。

 以上の話をまとめると、シェアハウスに住んで、赤の他人と共同生活をするのが合理的選択になるのは、「人間としての基本的なコミュニケーション能力を身に付けるため」という動機がある時に限定される。

 これが「シェアハウスに住むのは合理的な選択か」という問に対する、僕の回答である。

 山田宏哉記

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