ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3358)

 人と組織を変えるストレッチ・アサインメント

 会田秀和(著)『P&G流 世界のどこでも通用する人材の条件』(ダイヤモンド社)を読んでいたところ、「ストレッチ・アサインメント」の考え方が非常に印象に残った。

 ストレッチ・アサインメントは、敢えて現状の能力では無理めなポジションに任命し、必死にそのポジションに適応させることで、劇的な能力向上をもたらす手法を指す。

 日本人の感覚では、つい「適材適所」と言ってしまうが、本当は「未熟者に重責を課す」方が、劇的な能力向上を期待できると思う。これは三枝匡氏の経営人材育成論を読んだ時にも、感じたことだ。

 僕自身、もともと向いていなかった事も、役割を果たすうちに、自然とできるようになった。

自分で言うのも何だが、僕は今、数年前と比べると、格段に重要度が高い役割を果たしている。

 中には、「今の僕には無理めな役割」もあった。

 だが、改めて振り返ると、自分に「適任」だと思うことより、自分にとって「無理めな役割」を担った時の方が、能力向上の幅が大きかったと感じる。

 公表できる事例としては、東日本大震災の時、被災地の福島県でした瓦礫撤去等のボランティア活動がある。

 殆どの人にとって未経験の事態だったが、そのような状況下で活動することは、自分の能力を劇的にストレッチすることになった。

 立場や役割には、人を変える力がある。

 おそらく、多くの人は、責任のあるポジションを任されるだけで、その役割に相応しい能力を身に付けることができる。

 むしろ問題の本質は、ポジションの数が限られている以上、そのチャンスが誰にでも平等に回ってくるわけではないことだ。

 例えば、マーケティングに必要な能力を身に付けるには、実際にマーケティングを担当するのが一番だ。任命時には能力不足だとしても、担当者になれば、実務を通して技術や知識が身に付くので、続けるうちに、いつしか優秀なマーケターになってしまう。

 これは、他の職種についても、同じことが言える。

 「人材育成のために、適任者ではなく、現状では能力不足の人をアサインする」というやり方は、人と組織のパフォーマンスを上げるのには、「適材適所」よりも、むしろ効果的だと僕は思う。

 もっとも、「現状では能力不足の人をアサインする」のであれば、誰が選ばれ、誰が選ばれないのか。成果主義とはあまり馴染まないが、モノを言うのは「こいつなら逃げずに完遂する」という信用だと思う。

 能力不足の人が、「重責」を与えられ、必死に適応するうち、徐々に「適任者」へと近付いていく。そして、「適任者」になった瞬間、そのポジションを離れ、次なる「重責」を担っていく。個人的には、これは理想的な組織運営のあり方だと思う。

 但し、自分の実力以上の重責を担うことについては、完全に向き不向きがあり、基本的には、困難な挑戦を前にして、「血が騒ぐ」人にしか向かない。嫌がる人に強引に適用すると、病気になったりして、能力向上どころか、戦力外になってしまう。

 また、このやり方には「余剰人員をどうするか」という問題があり、実際に日本企業でそのまま運用するのは難しいだろう。

 ただ、それでも、ストレッチ・アサインメントが、人と組織のパフォーマンスを上げる効果的な手法であることは、間違いないと僕は思う。

 山田宏哉記

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2014.5.24 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ