ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3359)

 今、「普通の働き方」を考える

 常見陽平(著)『普通に働け』(イースト新書)を読んだ。「世の中を動かしているのは普通の人」という立場で、「意識高い系」の働き方に異議を唱えている。

 結局、「普通の人」や「普通の働き方」が何を指しているか、よく理解できなかったが、常見氏の視点に立てば、その具体例のひとつは「中堅以下の大学を卒業して、中小企業の営業職になる」ことのようだ。

 仮に「中堅以下の大学を卒業して、中小企業の営業職になる」のが「普通の人」だとしよう。そして、目の前の売上ノルマに追われて働くのを「普通の働き方」だとしよう。

 確かに、こういう人は、数の上では多いだろう。「普通の人」と呼んでも、差し支えないかもしれない。そして、こういう仕事は、世の中になくてはならないものだろう。

 だが、実のところ、僕は世の中を動かしているのは、「普通の人」や「普通の働き方」だとは、考えていない。そして、「普通の働き方」についても、常見氏とはだいぶニュアンスの違う認識を持っている。

 まず、僕は世の中を牽引しているのは、上位5%と下位5%の「極端な層」だと考えている。

 上位5%の人間はエリートやリーダー、天才として成果を出し、下位5%の人間は自らが社会問題となることで、世の中にインパクトを与える。

 世の中や組織の大きな枠組みは、上位5%の人が、問題を起こした下位5%の人の処遇について、意志決定することで決まる。この枠組みが、法律や会社規則になる。

 そして、「普通の人」は、この枠組み作りに、直接的には関与しない。

 例えば、裁判では、「上位5%の人間」である裁判官が、「下位5%の人間」である被告人に対して、処分を下す。裁判の結果は、判例として残り、世の中にインパクトを与える。

 あるいは、生活保護の受給者は、下位5%の人間と言えるが、生活保護の制度を設計したのは、上位5%の人間である厚生労働省の官僚だ。そして、生活保護は、世の中を動かす社会問題のひとつとなっている。

 今日の大企業も、かつて上位5%の起業家が創業したからこそ、今、存在する。世界を変える発見や発明、商品開発を主導してきたのも、上位5%の人々だ。世の中や組織の変革を牽引してきたのも、上位5%のリーダー層だ。

 国際関係を見ても、内戦や紛争、自国民の虐殺などをしでかすのは、下位5%の国家である。国際問題の主要なテーマは、「下位5%の問題国家にどう対処するか」である。

それでは、上位5%でも、下位5%でもない「普通の人」は、世の中でどのような役割を果たしているのか。

 それは、一言で言えば、「運用と保守」である。つまり、社会や組織の歯車の一部として、社会や組織、事業が支障なく回るようにする。これが「普通の人」が果たすべき役割である。

 誤解のないように言うと、「運用と保守」は、一見地味だが、事業の根幹部分である。

 運用と保守がなければ、どのような事業も成り立たない。ゴミが落ちていたら、掃除する。雪が降ったら、雪かきをする。そういう運用と保守は、9割の「普通の人」の尽力と協力がなければ、決してできない。

 「但し」と僕は思う。運用と保守は、基本的に現状の枠組みを受け入れる立場だ。

 現状の枠組みの中で改善することはできても、枠組みそのものを抜本的に変革することができない。「普通の人」にできるのは、上位5%と下位5%の人が決めた枠組みを、改善するところまでだ。

 更に言うと、普通の人が担う「運用と保守」の役割は、コンピュータとの競争が激しい領域である。運用のプロセスが自動化されれば、職業そのものが不要になる可能性もある。そして今では、企業は「普通の人」を積極的には求めていないと僕は思う。

 「普通の人」が飯を食うためになすべき事は、人材マーケットの需給関係に従い、人手が足りない業界や職種で働き、事業が滞りなく回るように貢献することだ。

 歯車の一部として、代替可能な仕事をこなすわけだ。

 「人が足りない」とか「人が余っている」といった人材マーケットの需給関係で、仕事を転々とするのは、不本意なことかもしれない。しかし、これは「普通の人」が「普通の働き方」をする以上、引き受けなければならない義務だ。

 「自分が何をやりたいか」ではなく、世の中や組織の中で、人手が足りない場所に自ら身を置き、雨漏りが起きないようにする。仕事はそういうものだし、だからこそ、普通の人でも、飯を食えるくらいの報酬を得られるのだ。

 これこそ、「普通の人」にとっての、「普通の働き方」だと僕は思う。

 山田宏哉記

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2014.5.24 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ