ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3367)

 資本主義の原動力としてのアービトラージ

 大物プロブロガーが、東京から高知に引っ越しをして、家賃を節約することを「アービトラージ戦略」と呼んでいた。

 さすが、大物プロブロガー。何もわかっていない。

 アービトラージは、裁定取引とも呼ばれ、資本主義の原動力でもある重要な考え方だ。
大辞林には「市場間の価格差を利用して利益をあげる経済行為。その結果として、両市場の価格差は縮小する」とある。

 もっとわかりやすい言葉でいえば、アービトラージとは、「鞘(さや)取り」のことだ。鞘とは、大辞林によれば「売り値と買い値の差」のことを指す。

 具体例で考えよう。

 例えば、マクドナルドのビッグマックの価格が、日本で¥300、アメリカで3ドルだとする。為替が1ドル¥90なら、「アメリカでビッグマックを買って、日本で売る」ことで、¥30の利益が出る(賞味期限や諸経費は無視)。

 あるいは、金券ショップで、A店での図書券の買取価格は額面の95%、B店での販売価格は、額面の85%だとする。この場合、「B店で図書券を買って、A店で売る」というアービトラージで、額面の10%を利益として取れる。

 時間や場所、決済方法などによる価格差を取るのが裁定取引だ。

 大航海時代の背景には、香辛料による裁定取引があった。当時は、インドのような地域で低コストで香辛料を調達して、ヨーロッパに持ち帰って売り捌けば、大儲けが可能だった。「偉大な航海者たち」は、欲にまみれた資本主義者でもあった。

 アービトラージは、資本主義の原動力そのものでもある。

 資本主義の世界において、「一物一価」が成り立つのは、裁定取引の存在により、価格が一定に収斂するからだ。

 但し、価格差から利益が得られる状態は長くは続かない。「鞘取り」をする人が増えれば、「鞘取り」の行為自体が価格にインパクトを与え、その結果、価格差は消滅するからだ。

 さて、ここで改めて、東京から高知への移住は、アービトラージと呼べるか、考えてみたい。

 不動産に対して、裁定取引に近いことができるのは、不動産業者の立場だろう。

 ある中古物件に対して、売り手の希望価格が1000万円以上、買い手の希望価格が1500万円以下なら、業者は1000万円で買って、1500万円で売ることができる。業者は裁定取引により、比較的安全に500万円の利益を手にできる。

 賃貸でも、東京で部屋を貸して得た賃料を、高知で部屋を借りる賃料に回し、差分のキャッシュを利益とするなら、地域による価格差を利用するアービトラージと呼べなくもない。

 しかし、大物プロブロガーは、東京で不動産経営をしているわけではないだろう。単に家賃の低い場所に移住して、生活を切り詰めているだけで、何も利益を生み出していない。

 いずれにせよ、聞きかじった用語を適当に使うのは、本当に悪い習慣だと思う。大物プロブロガーの行為や状態は、「アービトラージ」ではなく、「節約」とか「困窮」と呼ぶものだ。

 山田宏哉記

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2014.6.13 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ