ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3388)

 差別は動物の本能である

 島崎藤村の『破戒』を読んで、改めて痛感したことがある。それは、「差別は動物の本能」ということだ。

 動物の本能は、異分子を群れから排除しようとする。人間もまた動物だ。そして、動物の本能である以上、差別はなくならない。

 『破戒』は、被差別部落出身であることに苦悩する学校教師の主人公と差別に加担する人々の描写が圧巻だ。

 主人公は、被差別部落出身であることを自白し、教職を辞し、アメリカのテキサスへと旅立って行く。賛否はあるようだが、主人公の対応は正しいと僕は思う。

 自分が差別される当事者になった時、「世の中から差別がなくなる」ことを期待するのは、甘い。

 社会評論として、差別問題の是非を議論するのと、自分が差別される当事者としてどう生きるかは、実は全くの別問題だ。

 評論をするなら、「差別はいけない、許せない」で充分だ。これで誰にも文句は言われないだろう。しかし、自分が差別される当事者なら、綺麗事では済まない。

 在日外国人に対する罵詈雑言を見ればわかるように、差別には、何か具体的な原因があるわけではない。悲しいかな、多くの人は、誰かを見下すことでしか、自分の存在に手応えを感じることができない。

 そして、それが褒められたことではないとわかっていても、やめられないのだ。

 いじめを見ても、わかる。

 基本的に、いじめはなくならない。いじめもまた、「動物の本能」であり、弱い者いじめをするのは、とても楽しいことだからだ。

 特に学校のような閉鎖的で娯楽の少ない環境では、いじめが「唯一の娯楽」になりがちだ。いじめられっ子はまず、このことをよく理解する必要がある。

 傍観者として意見を言うなら、「いじめはいけません、やめましょう」だろう。

 しかし、いじめられている当事者の生徒が「いじめはいけないことだから、なくなるだろう」と期待するのは、間違っている。転校するなりの対策が必要だ。

 日本人はもともと、血液型や出身地による決め付けが好きだ。「差別はいけない」と標語を書きながら、「九州男児は男尊女卑」とか「B型はエキセントリック」とか、勝手に決め付けている。

 このレベルの物言いは許容されているように見えるが、厳密には、これらも差別である。もっとも、あまり深刻ではないレベルの差別を許容するのは、現実的な知恵だ。要は「程度の問題」なのだ。

 僕自身は「差別はなくならない」と諦めている。その上で、差別問題の被害を最小限に留める方法を考えるのが、現実的で生産的だと考えている。

 男女差別や障害者差別、在日外国人差別など、現在でも深刻度の高い差別問題は存在する。現実的なのは、差別をなくすことではなく、深刻度を血液型差別や県民差別のレベルにまで引き下げることだと思う。

 もちろん、根源的に「差別はいけない、やめよう」と主張するのは吝かではないが、こんな標語を並べても、動物の本能は抑えられないだろう。

 むしろ、建前ばかりが先行し、本音が抑圧されれば、却って差別が陰湿になると、僕は考えている。

 山田宏哉記

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2014.8.16 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ