ジョン・スミスへの手紙
サイバー・ラボ・ノート (3390)

 戦争番組を見る必要はない

 日本では、第二次世界大戦を振り返る戦争番組が数多く作られている。戦争を扱っている以上、当然ながら、その多くは、陰鬱だったり、凄惨だったりするものだ。

 あなたは、律儀に「過去の戦争の悲惨さを知るのは、国民の義務」などと考えて、気が重くなるのを我慢しながら、戦争番組を見ていないだろうか。

 正直なところ、僕は戦争番組を敬遠することが多い。見ていて疲れるからだ。「国民の義務として見るべき」という建前はわかるが、凄惨な映像を見せられて、余暇を憂鬱な気分で過ごしたくない。

 先日放送されたNHKスペシャルの「狂気の戦場 ペリリュー」は見て感じたのも、そのことだ。この番組も、戦場のグロテスクな死体や負傷の映像が満載で、後味が悪かった。少なくとも、仕事の後の気分転換に見る番組ではなかった。

 「二度と戦争を起こしてはいけない」と決意するために、悲惨な死体映像を浴びるように見ることについて、とやかく言うつもりはない。しかし、僕は律儀に付き合うつもりはない。

 ひとつ指摘させてもらえば、悲惨な死体映像を見せてトラウマを植え付けるのは、カルト教団の洗脳手法と同じだ。

 戦争番組を作る究極の目的は、一般大衆が「戦争」と聞いたら、条件反射的に悲惨な映像を想起して、恐怖で震えるようにすることだと思う。頭が弱い人の思想をコントロールするには、効率的な方法かもしれない。

 これは洗脳に他ならないが、無闇に戦争をしないこと自体は正しい。目的が手段を正当化している例だろう。

 ひとつ、問題にしたいことがある。

 戦場での凄惨な人殺しの映像を見ることは、健全な精神を養う上で、果たしてプラスに作用するだろうか。どちらかと言うと、精神衛生を悪化させて、道を踏み外すリスクの方が大きいのではないか。

 戦場で悲惨な光景を見た兵士が、PTSDになり、日常生活に支障を来たすようになるのは、よく知られている。

 人を殺す訓練を積んだ兵士たちですら、「戦場の狂気」に触れると、生涯に渡るトラウマを負い、自殺に追い込まれたり、廃人に落ちぶれていくことが珍しくない。

 「戦争の悲惨さを知るべき」と言えば聞こえは良いが、「TVで見れば、凄惨な光景でも大丈夫」という保証はどこにもない。

 ペリリューの話にしても、出演した経験者たちが皆、酷いトラウマになっているのに、その戦場のグロテスクな光景を平然と放送するのは、どうかと思う。悲惨な光景を見たい人は見ればいいが、強引に他人に押し付ける類のものではないだろう。

 戦争の悲惨さを知ることは必要だが、戦場のグロテスクな光景をわざわざ見る必要はないと思う。PTSDになって、日常生活に支障を来たすようになっても、誰かが責任を取ってくれるわけではない。

 率直に言えば、戦争番組を見る必要はない。見たい人は見ればいいが、「国民の義務」などと背負い込む必要はない。

 悲惨な戦争番組ばかりを見て、鬱病で就業不能になった人より、お笑い番組を見ながら、毎日働いている人の方がずっと立派なのだ。

 山田宏哉記

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2014.8.18 記事一覧へ戻る 文筆劇場・トップ